ヒロセ電機・ハーティングが共同開発、スマートファクトリー時代の次世代コネクタ規格

産業用Ethernet用コネクタ ix Industrial

機器間通信の高速化・大容量化に伴ってコネクタ形状も進化しているが、例外の1つがEthernetコネクタの「RJ45」だ。極めて汎用的な規格で、家庭用、IT、産業領域で30年以上も変わらず使われている。

しかし工場や製造現場といった産業領域は環境が劣悪な上、生産ラインを止めるようなトラブルは厳禁で、民生品と同等の機器を使うのはリスクがある。そのため最近は、RJ45の代替となるような新しい産業用Ethernetのコネクタ規格に変えていこうという声が高まっている。

その有力規格のひとつが、ヒロセ電機とハーティングが共同開発した「ix Industiral」。詳細について聞いた。

圧倒的な小型サイズのix Industrial

 

産業用ネットワークの進化と、変わらないコネクタ形状

PLCとモータドライブなど製造装置内または製造現場にある機器同士をつなぐ産業用ネットワーク。FAネットワークやフィールドバスと言われ、CC-LinkやPROFIBUS、EtherCAT、MECHATROLINK、EthernetI/Pなど特徴あるさまざまな規格が存在している。もともとは独自規格として存在していたが、90年代後半から2000年代にかけてEthernet化が進み、現在では産業ネットワークの50%超がEthernetベースとなっている。

近年はオープン化の波に乗り、それぞれの規格同士の相互接続がスタート。また新技術として、より高速で大量で信頼性のあるデータを流せる新しいTSNが実用化されるなど年々進化している。

またスマートファクトリーやインダストリー4.0、IoTなど、工場内の機器がつながるのが当たり前になっている。さらに上位システムのITとFAの融合が叫ばれるようになって、ネットワークにつながる機器は増加する一方だ。

しかし通信規格が進化し、ノード数が増えていくなかで、コネクタは昔のまま。より高速・高精度な制御が求められ、ネットワーク上のデータの種類も量も増えるなかコネクタも進化すべきという声が高まっている。

 

RJ45が抱える致命的な3つの欠点

RJ45は、Ethernetが社会に急速に広まるなかで産業向けにも浸透し、いま製造現場でもごく普通に使われている。そのままでも良さそうなものだが、ヒロセ電機によると、実際にはRJ45には産業用に使うには致命的な欠点が3つあり、多くの人を悩ませてきたという。

1つ目は「折れやすいラッチ」。ラッチはプラグ側の上部に付いている爪のことで、抜く際は指で押さえて行う。とても折れやすく、ラッチが折れるとロック機能を失いプラグが抜けてしまうため、それを防ぐためにラッチカバーを付けることが多い。

2つ目は「別規格のケーブルが差し込めてしまう」こと。電話線・モデムケーブルの挿入先として間違えやすく、いったん挿すとピンが壊れて接点不良を起こしてしまう。

3つ目が「端子の並び」。8ピンのペア設計は1と2、3と6、4と5、7と8というふぞろいになっており、そのおかげで通信性能が低く押さえられてしまっている。これら3つの欠陥によって製造現場は多くの我慢を強いられてきたという。

 

ヒロセ電機 横浜センター 東野伸也グローバルマーケティング部長 兼 商品企画課長は「家庭やオフィスのLANであれば、ラッチが折れたら交換すれば良い。少しの停止や遅延は致命的にならない。しかし工場や製造ラインでは1秒の遅れでも影響が大きい。また機器の小型化への要望も根強く、RJ45が大きさの下限になっていて、それをどうにかしたいという声は高まっている。いままでRJ45以外の選択肢がなかったので使われてきたが、これからのスマートファクトリーやIoTに向けて変えていかなければならない」と強調する。

昔のままのRJ-45コネクタ

 

小型・堅牢・高速 産業用Ethernet向けコネクタ新規格

こうしたRJ45に対し、産業用Ethernet向けの新しいコネクタ規格を作ろうという動きがいくつか出てきている。そのなかで有力とされているもののひとつがヒロセ電機とハーティングが2017年に共同開発した「ix Industrial」だ。

同規格は、IEC61076-3-124に適合し、産業用に小型化、堅牢性、高速性を実現している小型Ethernetコネクタ。RJ45と比べて4分の1程度の大きさで、10mmピッチの並列実装ができる。実装スペースを大きく減らし、自由度の高い基板設計が可能だ。堅牢性については、抜き差しの際のこじりの動きに強く、RJ45でよく発生する基板剥離のトラブルを解決している。

高速性についても1GbpsのCat.5e、10GbpsのCat.6Aに対応。さらに信号端子を基板実装部近くまでシールドで覆い、高いノイズ耐性を確保して安定した通信を確保している。

 

「あらゆる機器がつながるなかで、もっとコネクタ部分を小さくしたいという声が多く、小型で産業用に使えるコネクタを作ろうということで開発した」(ヒロセ電機 営業本部グローバルマーケティング部 商品企画課 藤本拓也係長)

同規格は国際標準のオープンな規格化を目指している。IEC(IEC61076-3-124)に適合し、現在、CC-Linkをはじめ主要な産業用ネットワーク規格団体でも部品標準化を提案している。通信測定機器メーカー世界最大手のフルーク・ネットワークスから、同コネクタを使った配線システムの認証試験ができる専用アダプタも発売されており、普及に向けた土台はできあがりつつある。

 

産業用Ethernet以外にも広がる 産業用カメラでも規格化

同規格の用途は産業用Ethernetに限らず、機器間通信の規格としても応用できる。例えばシーメンスは、同社のサーボモータのサーボドライブの接続に同コネクタを採用。小型化と結線の容易さで省力化が図れることを高く評価して採用を決めたという。

また産業用カメラ・マシンビジョンの世界でもGigE Visionのインターフェースコネクタとして国際業界団体AIA(Automated Imaging Association)の認定を受け、晴れて国際標準規格となった。

「協働ロボットのアーム先端にビジョンカメラを取り付けて画像認識をするケースが増えていて、そこでは小型化が求められている。そうした機器の小型化には最適だ。産業用ネットワークを一番に考えているが、それ以外にも広げられる可能性にはチャレンジしている」(藤本氏)という。

引張り・こじに強い堅牢性

 

RJ45の後継として長期的視点で普及目指す

RJ45はすでに30年以上使われてきた歴史がある。それに対して同規格は市場に出てまだ3年目。普及は一朝一夕では実現不可能であり、不足している部分も多い。普及に時間がかかることは織り込み済みだ。

東野氏は「長期的な世代交代を見据えて着々と進めていく。RJ45が持っている製品群や測定器などの周辺インフラの中でix Industiralに足りていない部分がまだある。まずはそこをそろえていくことで長年使用してきたRJ45からの代替に対するお客さまの不安を払拭したい」としている。

とは言え、すでにヒロセ電機とハーティング以外にも賛同企業が集まっており、10社以上では搭載機器が量産に入っている。また50社以上から問い合わせが来ていて、目指すコンセプトは受け入れられている。スマートファクトリー、インダストリー4.0という変革の時代、コネクタの進化にも期待は大きい。

Electrons D’Or2017を受賞

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