ロボット革命イニシアティブ協議会とアカテックが白書で指摘
人手不足解消し現場力向上へ
日本の製造業の源泉である「製造現場の強さ」が最近変質してきている。人手不足解消のための新たな層の雇用やロボットなど新規設備の導入が進むなか、熟練技術者の減少による質の低下がカバーしきれていない懸念が広がっている。
日本のコネクテッドインダストリーズの推進主体であるロボット革命イニシアティブ協議会とドイツ工学アカデミー(アカテック)がまとめた白書「デジタル社会における人と機械のあるべき姿 Revitalizing Human-Machine Interaction for the advanced society」ではそうした状況を指摘し、その対策について示唆している。
労働力の減少 50年で3000万人
日本の人口は減少傾向にあり、2015年の日本の人口は1億2520万人で、これが2065年には32%減の8808万人まで減ると予測されている。
このうち労働力となる15歳から64歳までの生産年齢人口は15年の7592万人から65年には4529万人まで減少し、約3000万人がいなくなると言われている。現在の近畿地方の人口が2276万人、中部地方が2301万人であり、日本の中核を担っている地域以上の労働人口がいなくなる計算だ。
すでに人手不足が始まっているが、10年以内にはもっと深刻化すると見込まれている。パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」によると、30年には国内で644万人の労働力が不足し、製造業に限ると810万人必要なところを771万人しか供給できず、38万人が不足すると予測されている。
進む新規層雇用とロボット導入
労働力不足に対する解決策として現在進められているのが、女性や年配者、外国人労働者の雇用だ。25歳から44歳までの女性の雇用率は00年に61%だったものが16年には72.7%まで上昇。同様に65歳から69歳までの年配者の雇用率も36.2%から44.3%に上がっている。外国人労働者の数も08年には48万6000人だったものが、17年には127万9000人まで増加している。
一方でロボットや自動化機械などの設備導入も進んでいる。国内のロボット販売台数は年々増加し、日本ロボット工業会の統計によると、13年に産業用ロボットの国内出荷台数は2万7275台だったものが、17年に4万9171台と過去最高を記録し、18年にはさらに上回る5万9068台まで増加している。今後も増える見通しだ。
デジタル技術活用も一手
雇用や設備導入によって表面上は対策が施されているように見えるが、製造現場の中身を見ると大きく変化している。
ロボット革命イニシアティブ協議会とドイツ工学アカデミー(アカテック)による白書によると、かつての製造現場は人と機械で構成されていたが、現在はそれが変化しているという。
人と古い機械、デジタル化された機械やロボット、AIを搭載したロボットが働き、「人」についても、かつては成人男性が中心だったものが、いまは女性や年配者、外国人労働者の雇用増加によって性別や年齢、言語や文化習慣が異なる人が一緒に働くようになっていると解説。この状態を「ダイバーシティ(多様性)」と表現している。
熟練技術者が不足し、技術伝承が難航するなかでダイバーシティ化が進んだことによって、全体として現場の力は低下。新規設備導入による人手不足の解決も、機械が能力向上したことで人への支援が多くなりすぎ、人の能力が退化するリスクにさらされていると指摘している。人手不足を解消し、その上で生産性向上や高付加価値の仕事の創出、高い経済成長率を実現するには、このままではいけないと警鐘を鳴らしている。
人と機械の関係再構築
現場力の低下は日本の競争力の源泉を失わせることになりかねない。その対策として必要なのが、製造現場へのデジタル基盤の導入と、人と機械の役割と関係性の再構築だ。
同白書では、製造現場における人と機械の関係性としてあるべき姿を「マルチバースメディエーション(Multiverse Mediation)」と表現し、従来は技術は人から人へと伝承し、人は機械を操作し、機械は人をサポートする関係性であったものを、人と人、人と機械、機械と機械が相互に情報を交換し、助け合う関係性になるべき。そのデータ・情報はデジタル基盤に蓄積し、人と機械に共有されるのが望ましいとしている。
製造現場から労働力が減ることによって現場カイゼンやイノベーションの能力は確実に落ちる。それを補い、向上させるためには人と機械をより密接に関係性を強くする必要がある。
その実現に向けた取り組み事例として、日立製作所の人と機械の共進化に関する事例や三菱電機のコレクティブ・インテリジェンス、東京大学のデジタル・トリプレットを取り上げて説明している。