生産管理に関する中国工場の問題事例③
ABC分析を使い 適正在庫にメリハリ
前回(第30・31回)で生産管理の生産計画、生産段取り、進捗管理について書きました。
第32回の今回は、在庫管理の話です。
4.在庫管理
生産管理の重要な仕事のひとつに在庫管理があります。それは、在庫が工場経営に与える影響が大きいからです。在庫の持つ意味、在庫のメリット・デメリット、そして、在庫管理手法を今一度認識してください。
在庫の考え方
財務上在庫品は、キャッシュと同じですので、在庫が多いとそれだけ倉庫にキャッシュを眠らせておくことと同じなのです。在庫を減らすことは、眠っているキャッシュが減ることになり、使えるお金、つまりキャッシュフローがよくなることを意味します。
これからすると、在庫は少なければ少ないほどよいという事になりますが、話はそう単純ではありません。ここで、在庫の持つメリットとデメリットをおさらいします。
在庫のメリット
何かあったときのバッファーとしての役割を持っています。
生産上のトラブルがあっても、部品・材料、仕掛品、製品で在庫を持つことで、納期等で顧客に迷惑をかけることを防ぐことができます。
在庫のデメリット(リスク)
在庫のデメリットは、それの使い道がなくなったり、劣化によって使用不能になることや売れずに残るデッドストックとなることです。「デッドストック=在庫金額分の損失」となります。
キャッシュフローの面からいえば、在庫は極力少なくした方がよいのですが、生産や顧客対応を考えると一定の在庫を持つことも必要と考えることができます。そのちょうど良いポイントが適正在庫になります。
適正在庫の設定は、製品それぞれの販売状況や機会損失との兼ね合いを見て決めていくことになります。その時に一律管理ではなくABC分析を使いメリハリをつけるようにします。適正在庫は一度決めたら不変ではなく、工場の努力により適正在庫の量を減らしていくことが本来の姿です。
工場の在庫には3つあって、
・部品/材料在庫
・仕掛在庫
・製品在庫
となります。この3つが適正な在庫量になるように管理しなくてはなりません。
適正在庫は必要なのですが、適正在庫であっても在庫を持つことで工場の改善・解決すべき問題点を隠してしまい、工場の改善やレベルアップを妨げる要因となり得ますので、注意が必要です。
例えば、
・不良率を見込んで在庫を持つようにした
→不良率を下げなくても問題ないことになってしまい改善しない
→本来は、不良の原因をつかみ、対策をすることで不良率を下げるべき
・顧客の短納期要求対応として在庫を持つようにした
→本来は、生産リードタイムを短くして、顧客要求に応えるようにするべき
・顧客の注文変更対応として在庫を持つようにした
→本来は、顧客要求に対応できる柔軟な生産体制を取れるようにするべき
など。
※在庫量の管理手法
在庫量の管理・監視するのには、在庫回転率を見ていくのがよいと思います。もちろんこの指標がすべてではありませんが、工場全体そして個々の在庫状況の推移をつかむのに適した指標であるのは間違いありません。
例えば、製品の在庫回転率は、次の式になります。
在庫回転率=年間の売上金額÷在庫金額
在庫金額=(期首在庫+期末在庫)/2
この推移を見ていくことで、何か異常があったときに早期に発見し、対策・対応することができます。
中国工場の在庫に関する問題点トップの考え方によって在庫の持ち方が両極端になっている
・在庫を極力少なくすると考えている工場は、バッファーがない状態で対応しようとしているので、多くのところでロスを出しながら生産している。
また、このような工場では部品の受入検査で不合格にすると生産に影響が出るので、検査部門に圧力がかかり、不合格判定できない状況になっている工場もある。
・一方で、在庫を多めに持つ工場では、在庫を持つことで納期などの問題を発生させないようにしている。前述のように在庫が工場の問題点を隠してしまっているので、工場の真の問題点はいつまでもそのまま残っている。
在庫の保管管理と長期在庫品の品質
・部品や製品在庫は倉庫に保管しますが、その保管環境が悪く劣化させてしまっている
・長期在庫品を生産に投入する、出荷する場合に、その品質に問題がないことを確認せずに投入/出荷して、トラブルの原因となっている
今回のシリーズでは、生産管理に関する中国工場で実際にあった問題点を紹介しました。
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◆根本 隆吉
KPIマネジメント代表・チーフコンサルタント。電機系メーカーにて技術部門、資材部門を経て香港・中国に駐在。現地においては、購入部材の品質管理責任者として購入部材仕入先品質指導および品質改善指導。延べ100社に及ぶ仕入先工場の品質改善指導に奔走。著書に「こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善〈虎の巻〉」(日刊工業新聞社)など。