産業用ロボットの普及・拡大の最大の課題は人材不足。特に、問題を抱える現場に対し、ロボット活用法とシステム構築を通じて解決に導く「ロボットシステムインテグレータ(ロボットSI)」の人材確保と育成は、ロボットの社会実装に向けた大きな課題となっている。
それに対しロボットSIの業界団体であるFA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会)は、若者に向けて産業用ロボットとロボットSIの認知と魅力を伝え、人材発掘を目的とする「ロボットアイデア甲子園」を開催。
12月の国際ロボット展での全国大会を目指し、いま全国各地で熱戦が繰り広げられている。
世界へアピール
ロボットに触れ考える機会提供
ロボットアイデア甲子園は、若者に産業用ロボットの実機に触れる機会を提供し、同時にロボット業界の将来性を認識してもらうことを目的として今年度から正式にスタートした。
もともとは高丸工業が尼崎市で実施してきたイベントをベースに、昨年は同協会と関東経済産業局の共催で、関東圏内2箇所のロボットセンターで実施。今年度はさらに規模を拡大して全国大会とし、名称も「ロボットアイデア甲子園」とあらためて開催されることとなった。
全国10カ所で地方大会開催
参加対象は高校生と高専生。産業用ロボットの活用アイデアをプレゼン形式で紹介し、参加者のなかから優秀者を決定する。すでに7月から全国10カ所のロボットセンターで地方大会が行われており、優秀者は12月の国際ロボット展に招待され、同展の会期中に行われる決勝大会で最優秀賞が決まる流れだ。
具体的には、見学会で会場となるロボットセンターで産業用ロボットの実機に触れ、作業デモを見学。さらに産業用ロボットの歴史や構造、制御、現在のアプリケーション等の基礎知識で学んだ後、今後の産業用ロボットの進化や新たなアプリケーション等を自由に発想してもらい、提案用紙にその内容を記入して提出。専門家によって内容を審査し、後日、あらためてプレゼン大会を実施。
優秀提案には各地方経済産業局長賞(予定)が授与され、同時に国際ロボット展で開催される「ロボットアイデア甲子園」全国大会(12月21日)の出場権が与えられる。
柔軟な発想と遊び心に期待
審査は、学識経験者(大学教授等)、ロボットシステムインテグレータ、教育機関関係者等産業用ロボット、ロボットシステムに関する有識者、国や地方公共団体等の代表によって構成される審査委員会が行う。全国大会では東京大学の佐藤知正名誉教授が審査委員長を務める。
審査基準は5点。①独創的な発想や未来への可能性を見る「創造性」 ②社会問題を解決するアイデアかどうかを判断する「社会性」 ③近い将来に実現可能性があるかを考える「実現性」、十分な市場性があり ④ビジネスとして成立するかを見る「市場性」、遊び心があり ⑤人を引きつけて感動させる要素を判断する「アピール性」。
さらにプレゼン大会では発表加点として「表現性」が加わる。発表資料や説明のわかりやすさ、時間配分等を総合的に判断する。
SI不足解消へ重要なイベント
日本の製造業の多くで人手不足が深刻化する一方、生産性向上への取り組みも不可欠となっている。また製造業以外でも同様で、その解決手段としてロボット活用があり、そこに期待する向きは大きい。
実際に日本国内におけるロボット販売台数は年々増加。国際ロボット連盟によると2017年に4万5566台、18年には5万5000台が日本国内で販売されている。労働者1万人に対するロボット稼働台数、いわゆるロボット密度も327台まで増加している。
こうした市場背景に対し、産業用ロボットメーカーも生産能力の向上や導入・運用を効率化する機能開発、低価格化などの対応を進めているが、一方で大きな課題となっているのが、ロボットを仕事・作業ができるシステムとして組み上げるロボットSIの不足だ。
現在、国内には約1000社のロボットSIがあると言われており、彼らが国内のロボットシステム導入を一手に担っている。しかしロボットSIの多くが地域の中小企業であり、慢性的な人材不足という課題を抱えている。
このままロボットへの関心が高まり、社会実装が進んでいくと、ロボットを入れたいニーズと提供するハードウエアがあってもSI不足のために導入できないという状態に陥る可能性も現実になりつつある。またロボットシステムの増加にともないメンテナンス市場も拡大することが目に見えており、ロボットSIの業務と役割の重要性、ビジネスの可能性の要素がますます強まっている。
ロボット産業の拡大のためには、ロボット開発者を充実させるだけでなく、ロボットを実社会で使える状態に仕上げるロボットSIを職業として認知させ、技術者を増やすことが不可欠だ。ロボットアイデア甲子園は日本がロボット大国、ロボット活用先進国、国が掲げるSociety5.0の実現に向かうなかで重要な意味を持つイベントだ。業界を挙げて盛り上げていく必要がある。