政府は、成長戦略のなかで中小企業の海外進出を重要な政策課題として位置づけている。こうしたなか、国や自治体の積極的な支援を追い風として、大企業だけでなく、中小企業を含む日本企業がより一層の海外進出を目指すことが期待されている。一方で、企業にとって、現地情報の収集や日本と諸外国との関係などが海外に進出する際のリスクとして顕在している。
そこで、帝国データバンクは、海外進出に関する企業の見解について調査を実施した。
※調査期間は2019年9月13日~30日、調査対象は全国2万3,696社で、有効回答企業数は9,901社(回答率41.8%)。なお、海外進出に関する調査は、2012年5月、2014年9月に続いて今回で3回目
調査結果
企業の24.7%が海外に進出、業界別は製造業が39.8%でトップ
生産拠点や販売拠点など直接的な進出を行っている企業は 13.7%、業務提携や輸出など間接的な海外進出は 18.1%となった(複数回答、以下同)。直接・間接のいずれかの形で海外進出をしている企業は 24.7%となる一方で、「進出していない」は 72.6%であった。
海外事業内容をみると、直接的には「現地法人の設立」が 8.1%で最も高く、次いで、支社・支店などを含む「生産拠点」(5.5%)や「販売拠点」(5.3%)、M&A などの「資本提携」(1.7%)が続いた。他方、間接的には、商社や取引先を経由した「間接的輸出」(9.1%)がトップとなり、以下、商社等を経由せず直接海外企業などと取引している「直接輸出(6.7%)、生産委託などの「業務委託」(5.8%)、技術提携などの「業務提携」(3.6%)となった。
また、5年前となる前回調査時(2014年9月)に海外に進出していなかった企業が、現在海外に進出している割合は、大企業で6.7%、中小企業で5.7%となり、5年前に海外に進出していた企業が現在、海外に進出していない割合は、大企業で5.5%、中小企業で6.9%という結果になった。
海外に進出している企業からは、「現状当社は中国における活動が中心であるが、取引商品によってはアジア以外を含め常に検討をしている」(食料・飲料卸売、埼玉県)や「インドとインドネシアがこれからカギになると思う。そのためには現地の状況やその国の商社との人脈が必要」(鉄鋼・非鉄・鉱業、広島県)などの声があげられ、世界の需要を獲得すべく奮闘している様子がうかがえた。また、「国内は人口減少にともない市場規模は縮小傾向にあると思われ、海外に活路を求めることは必須と考えている」(一般機械修理、静岡県)といった意見も多数あげられた。
他方、海外に進出していない企業からは、「地域密着型の当社にとって、海外進出は現在のところ念頭にない」(和洋紙卸売、山形県)や「当社製品は、法規制や政府機関との折衝を要するため、現在は国内市場のみに向けた営業活動を行っている」(精密機械器具卸売、大阪府)などといった意見がみられ、企業の戦略として国内の需要に重きを置いている企業が目立った。
一方で、「品質は自信があるが、海外に売っていく商品がない。また、メイドインジャパンが今後も通用するのか心配」(日用紙製品製造、東京都)というように、海外における日本製品の存在感に不安を抱く声も聞かれた。
『海外進出あり』を業界別にみると、『製造』が 39.8%で最も高く、次いで『卸売』(29.5%)、『金融』(27.6%)が続いた。
特に、『製造』を細かくみると、金属工作機械製造や半導体製造向けの器具・装置などの「機械製造」(51.6%)が 5 割以上となったほか、「化学品製造」(49.8%)や「輸送用機械・器具製造」(49.0%)、「精密機械、医療機械・器具製造」(48.1%)などが 4 割台後半で続いた。
また、従業員数が「1,000 人超」の企業では 70.9%が海外に進出しているが、従業員数が少なくなるほど同割合は低くなる結果となった。とりわけ、「1,000 人超」では、海外進出している企業の 9 割以上で直接的な進出を行っている。
また従業員数が少ない企業では、『間接的な進出』が『直接的な進出』を上回っているのに対して、100 人を境に『直接的な進出』が『間接的な進出』を上回る結果となった。従業員数が多くなるほどその差は際立って大きい。
相談相手は「取引先企業」が38.0%でトップ
直接・間接のいずれかの形で海外に進出している企業 2,449 社に対して、海外進出を進めるうえで、どのような団体や企業などに相談したか尋ねたところ、「取引先企業」が 38.0%で最も高かった(複数回答、以下同)。
次いで、日本貿易振興機構(ジェトロ)や中小企業基盤整備機構(中小機構)など「公的な支援機関」(29.0%)、「メインバンク」(26.0%)が 2 割超で続き、「現地企業」(16.6%)、「現地日系企業」(15.5%)が上位に並んだ。
企業の 3 割近くがジェトロや中小機構など「公的な支援機関」に相談していた一方で、経済産業省、外務省、国土交通省、環境省、中小企業庁などの「中央省庁」(4.2%)や「地方自治体」(2.7%)など行政機関に相談する企業は低水準にとどまった。
また、直接的な進出をしている企業では、「メインバンク」への相談が 37.5%で最高となっており、間接的な進出をしている企業を 15ポイント以上、上回っていた。次いで、「公的な支援機関」(33.6%)、「取引先企業」(31.3%)が続いた。
他方、間接的な進出をしている企業では、企業の 4 割超が「取引先企業」(42.1%)に相談し海外進出を進めていた。以下、「公的な支援機関」(28.2%)、「メインバンク」(22.3%)が上位となった。また、「商社・旅行業者」(16.9%)に相談した企業が、直接的な進出をしている企業より7.3 ポイント高かった。
「中国」を進出先として最も重視
海外進出をしている企業 2,449 社の内、現在海外進出している国・地域において、生産拠点として最も重視する進出先は、「中国」が 23.8%で最も高かった。以下、「ベトナム」(11.5%)、「タイ」(7.1%)、「台湾」(3.2%)などアジア諸国・地域が上位となった。
販売先は、「中国」が 25.9%でトップ。次いで、「アメリカ」(8.9%)、「ベトナム」(7.8%)、「タイ」(7.3%)、「台湾」(4.2%)が続いた。上位 10 カ国・地域では、「アメリカ」以外はすべてアジア諸国・地域が占め、生産拠点・販売先ともに 4 社に1 社が「中国」を最も重視していた。
業界別にみると、「中国」は『卸売』『製造』『小売』など 6 業界で生産拠点として最も重視する進出先としてあげられていた。他方、『建設』『サービス』『不動産』では「べトナム」を最も重視している。また、販売先では、『建設』の「ベトナム」、『不動産』の「アメリカ」を除き、すべての業界で「中国」を最も重視する進出先としていた。
企業からは、「中国は中小企業にとって魅力的な市場である。台湾企業との合弁事業で進出している」(電子応用装置製造、埼玉県)といった「中国」に対して好意的な意見がある。一方で、「中国の生産拠点を拡大すべきか、他の国(ベトナムなどアジア圏)へ生産拠点を移すべきか検討している。中国の人件費、部品調達費が上がっていることは課題」(医療用機械器具製造、大阪府)や「中国ではインターネットへの政府統制が非常に厳しく、ツールも限られる。そのため、日中間の情報共有に予想以上に苦労している」(電気機械器具卸売、愛知県)など、人件費や物価の高騰、政府による情報統制などをマイナス面として捉えている様子もうかがえた。
課題は「社内人材の確保」がトップ
今後、海外進出を検討または進める場合、どのようなことが障害や課題となるかについては、「社内人材(邦人)の確保」が 45.2%で最も高かった(複数回答、以下同)。次いで、「言語の違い」(37.9%)や「文化・商習慣の違い」(37.3%)、「海外進出に向けた社内体制の整備」(36.6%)、「進出先の経済情勢に関する情報収集」(33.9%)が上位となった。
規模別にみると、「大企業」では「中小企業」より多くの項目で深刻に捉えている傾向がみられた。特に「社内人材(邦人)の確保」(50.3%)は大企業の半数以上が課題として考えている。次いで、「海外進出に向けた社内体制の整備」(43.8%)が 4 割台で続いた。「中小企業」に比べて、相対的に人材が豊富な「大企業」であっても、社内の体制に関する障害や課題に頭を悩ませている実態が浮き彫りとなった。
他方「中小企業」では、とりわけ「事業資金の調達」(22.0%)を障害や課題として捉えている企業が多く、「大企業」を 8.6 ポイント上回っていた。
海外進出の有無別にみると、海外に進出している企業では「外国為替レートの変動」(43.5%)、「進出先の経済情勢に関する情報収集」(41.3%)、「進出先の政治情勢に関する情報収集」(41.2%)が上位に並んだ。他方、海外に進出していない企業では、「言語の違い」(40.6%)や「文化・商習慣の違い」(38.5%)などが上位にあげられており、現地での生活や文化などを課題として捉えている様子がうかがえる。しかし、海外進出の有無に関わらず、「社内人材(邦人)の確保」はともに 4 割台後半でトップとなっており、共通の課題として認識している。
期待する支援サービスは「法制度や商習慣に関する支援」
今後、海外進出を検討または進める場合、国や地方自治体などの行政や支援機関などに期待する支援サービスは、進出国の貿易制度、法人設立の手続き・制度などの「法制度や商習慣に関する支援」が 42.0%でトップとなった(複数回答、以下同)。
次いで、貿易保険・保障、為替変動への対応などの「リスクマネジメント」(36.1%)が 3 割台で続き、セミナー実施、現地管理者育成などの「人材育成支援」(28.6%)、展示会・見本市への出展支援、商談会やマッチング支援などの「販路確保や開拓支援」(27.7%)が上位。
特に、海外に進出していない企業では、「人材育成支援」や「事業計画支援」が海外に進出している企業と比較して高く、新たに海外事業を進めるための準備に関する支援を期待している様子が表れた。
まとめ
日本では、少子高齢化にともなう人口減少という構造的な課題があるなかで、国内市場の縮小に危機感をもつ企業も多い。同調査によると、海外進出をしている企業は 24.7%となり、『製造』や『卸売』を中心に海外へ活路を求めている。海外に進出するうえでの相談相手は、取引先企業を中心に公的な支援機関や銀行など多岐に渡っていた。
また、現在の進出先において、生産拠点・販売先ともに「中国」が最も重視している国となった。しかしながら、企業は中国における人件費などのコスト増や情報統制を懸念しており、将来的には他の国・地域へ拠点を移す動きも示唆された。
企業は、海外進出を進めるうえで「社内人材(邦人)の確保」を最大の課題として認識している。特に中小企業では、人材不足をはじめ資金面など経営資源の不足により海外進出への一歩が踏み出せていない様子もうかがえた。さらに、商習慣や法規制・制度に関しても障害や課題と考えている企業は多く、課題解決に向けて「法制度や商習慣に関する支援」に対する期待は大きい。
一方で、すでに海外に進出している企業では、海外の経済・政治情勢などのリスクに対する情報収集も課題と捉えていた。
日本経済の持続的成長のためには、国際市場にも広く目を向け世界の需要を獲得することが重要となる。企業が抱く海外進出への課題などの解決を目指しつつ、大企業だけでなく、中小企業を含む日本企業のさらなる海外進出を促す施策の重要性は一段と増しているといえる。