これまで述べてきたように、販売員にとって客という概念には二種類ある。少し詳しく考察してみる。
一つは、顧客といわれる人やグループであり、もう一つは見込み客といわれる人やグループである。顧客は販売店との間に信頼関係ができているから、①アポイントを簡単にとれる ②緊張感がない ③案件や用件を投げかけてくれる ④商品をPRしても心よく聞いてくれる ⑤世間話的な雑談ができる ⑥仕事の内容や会社のことをいろいろ聞ける ⑦他部門の人や協力会社の人の紹介を頼める、等のことが楽にできる間柄である。
見込み客には、一口座客でも販売店との間に信頼関係のない人やグループと、口座のない客がある。両者とも販売店との間には信頼関係ができていないので、顧客にやっている①から⑦までのことはできない関係だ。販売員は両者の違いを知っているはずなのだが、新規見込み客を訪問する時にその違いを理解しないでやってしまう。
例えば、④の商品紹介の場合に、日頃顧客に説明しているように良い事尽くめの仕様や機能を並べ立ててしまう。相手の反応を注意深く見ていないから失敗する。⑥の場合、2度、3度訪問したからといって、相手の会社の事を根掘り葉堀り聞いてしまう。もちろん話の流れでいい場合もあるが、聞き方や表現に十分な注意が必要なのだ。⑦の場合、お互いによく知らないのに簡単に紹介して下さいと依頼している。
よくあることだが、取り引きのない見込み客を訪問した時にやっている、受付に出てくれた人に対して「機器部品の○○販売店ですが電気関係の人に会いたいのです。どなたか紹介して下さい」と依頼する。一般的にやっている光景だから当たり前と思っている。仮に受付に出てくれた人が女性であっても、頭ごしにいきなり関係人を紹介して下さいというのは失礼な話である。赤の他人であるから事務的に断るのは当然である。
このような場合でも営業の基本動作としては相手に語りかけるように自己のPRをして、数分のコミュニケーションをしてから頼んでみればいいのだ。そうすれば意外と本音で断る理由を言ってくれるものだ。理由さえわかれば対応の仕方があるものだ。受付に出てくれた人に対しても、多少なりとも人としての信頼を与えられなければ簡単には人の紹介を頼めないのだ。
販売員は、普段会っている顧客と新規の見込み客との違いはわかっていると思っているが、その理解の程度は、緊張する、雑談ができない、アポは取れないしよくわからないから不安だという程度である。しかしその違いは販売員が思っているより大きいのである。
仮に製造グループと取り引きしている販売店があるとする。この製造グループは販売店と信頼関係があるから、販売店の担当が替わって新人の販売員になっても、売り上げが落ち込むわけでもなく、ほとんど売上額は変わらない。新人担当は当初、人間関係はぎこちないが、日々商品取り引きに関してやり取りをしているうちに、すぐ世間話などの雑談が言えるような関係になる。
しかし同一の客先でも、販売店と信頼関係のない製品設計や情報システムグループへの商品売り込み訪問は、数年その客を担当している中堅の販売員であっても簡単ではない。製造グループの人に紹介してもらって訪問するのが一般的である。仮に紹介してもらってそれらのグループを訪問しても、相手からの反応は薄く、相手から何の頼みごともされないなら訪問の仕方によっては二回目の訪問はできなくなり、結果的に売り上げ拡大の窓口は広げられない。
顧客と見込み客の違いを理解していないから、日頃顧客にやっていることを見込客にもやってしまい失敗するのだ。