直近の機械受注が大幅な落ち込みを示している。驚くことに、落ち込み幅はリーマンショックに匹敵、またはそれを超える状況である。工作機械を始め、小型プレスやレーザ加工機など、大惨事といえるほどの急落に見舞われている。今年の春先まで順風満帆であった機械業界は、いきなり暴風雨圏内に突入した。
不思議なことに、業界を震撼する受注減に見舞われている各機械メーカーは、意外なほど冷静である。その理由は、蓄積された膨大な受注残に加え、リーマンショックの時に体験した『急速な為替変動』が起きていないためである。現在の円ドル相場が比較的安定しており、現状のところ、急速な円高による輸出減や為替差損におびえる必要がないのが、リーマショック当時との違いである。
しかし世界を取り巻く環境は、世界的な本格的リセッション(景気後退)の危惧があり、決して予断を許す状況ではない。潮目が変わったと断言できる。
今回は、世界の経済状況の現状を再確認し、日本の中小製造業への影響と、今後の対応策を検討していきたい。検討に当たり、筆者が得意とする精密板金業界の現状に基づき検証を進める。
精密板金市場とは、国内市場4兆円規模の大きな産業であり、2万社の中小板金製造業が日本列島津々浦々に存在する『中小製造業・町工場』の代表的業界である。世間的にはあまり目立たない業界であるが、自動化やデジタル化が飛躍的に進んでおり、付加価値の大きい『先端的な業界』である。従業員規模の平均値は30人程度の小規模企業の集合体であるが、なかなか魅力的な業界でもある。
精密板金業界では、薄板の鉄板を加工し、さまざまな製品が製造されている。精密板金業界の特徴は「多品種少量」と「短納期」である。配電盤や制御盤の外枠カバーは「筐体」と呼ばれ、量産のできない精密板金業界が得意とする代表的な製品である。また、街にあふれるATM(現金自動預け入れ支払い機)や病院の医療機器(CT、MRI、人工透析機など)、駅の券売機やプラットホームのホームドアなど精密板金の製品は多岐にわたり、半導体製造装置や航空機部品から工作機械カバー、建設機械カバーなども精密板金の製品である。
あらゆる業界に入り込んでいる精密板金業界の景気動向分析から、いま日本で起きている不況業種を知ることができる。
不況に突入したのは、「工作機械」「建設機械」「半導体製造装置」であり、集中豪雨のごとくこの3業種に不況の波が押し寄せている。世界に目を転じると、ドイツ経済は土砂降り、欧州全体も低調、中国・韓国は悲惨、アジア各国も下降と、海外の経済環境は非常に良くない。
最高の景気を継続しているのは米国のみである。この米国で、11月中旬にシカゴ展示会と呼ばれるFabtec2019(精密板金向けの見本市)が開催された。筆者もFabtecの取材に出掛けたが、多くの専門家から『驚愕の情報』を得て当惑している。
この当惑ポイントは3点。①すべての米国の業界専門家が、来年度から始まる「米国のリセッション」を予想していること②ドイツ発のインダストリー4.0の失敗が明確であること③精密板金業界は「自動化とIoT化のみ」がイノベーションであり、機械の進歩が終焉したこと。この驚愕情報をベースに、日本の精密板金業界の来年を予想すると、限りない不安と希望が見えてくる。
不安の要因は、世界的なリセッションが間近に迫っていることである。日本の報道機関は、オリンピック不況や消費税不況を盛んに危惧しているが、それ以上に世界規模の不況期が訪れる危惧である。半面、希望の要因は、自動化/デジタル化による『中小製造業再起動・再成長』の芽吹きである。日本の中小製造業の最大の課題は「人手不足」であることは明白であり、現在の需給状況が続けば、人手不足は深刻化し、外国人労働者に依存する中小製造業が続出することは火を見るより明らかである。しかし、外国人労働者に依存した製造業が消滅の道を歩む事も、欧州が証明している。
日本の中小製造業に残された選択は、「最新技術の投入による生産性向上」、すなわち自動化/デジタル化によるイノベーションである。
『災い転じて福となす』は、日本の中小製造業に与えられた2020年のキーワードとなるだろう。この数年、中小製造業を襲った『狂気の受注増』は緩和され、目先の人手不足や外国人労働者依存も小休止となり、自動化/デジタル化による生産性向上に正面から取り組む絶好のチャンスがやってくる。
ドイツ発のインダストリー4.0の失敗が危惧されるが、これも中小製造業にとっては福音である。インダストリー4.0で大手製造業の囲い込みには入らず、中小製造業が主権を持って進める「自動化/デジタル化のイノベーション」実現の時がやってきた。
次回からは、中小製造業の自動化/デジタル化を具体的に実現する『人工知能やRPA、そしてクラウド技術』など、実現可能なイノベーションを紹介する。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。