機器部品の販売員が普段の訪問活動で面談の対象にしている人には二種類ある。資材購買の人と設計や製造の技術者である。
資材購買は商材を買う立場である。販売員は商材を売る立場である。各々の立場が違ってはいるが両者は同質である。だから会った瞬間から、資材購買は販売者からできる限りの情報を取ろうと虎視たんたんとする。販売員も、何を、どこから、何個くらい、いくらくらいで購入しているのかを聞きたくてうずうずする。
しかし、昨今の状況では資材購買の方が営業がうまい。初回のアプローチで販売員が資材購買から「どこのメーカーが強いの」などと聞かれると正直に説明調で答える。「それじゃ、見積もって」などと言われたら、もう舞い上がってしまう。本来はもっと攻め込むための情報を色々取れれば取りたいと思っていたのに喜んで帰社する。見込み客に攻めに行ったはずの販売員は、自社の情報だけを取られて相手の情報は何も得ずに終わっている。
実際は、機器部品の販売員が取扱い商品を見込み客に購入してもらうためには、設計や製造の技術者に採用してもらう必要がある。そのために、最初は窓口となる資材購買に面会しているのだ。当初から取引がしたいという戦闘モードで資材購買に会うから、見積もりを餌のように扱われてしまう。ここは技術陣の紹介を目標において、外交交渉のようにじっくりと面談する必要がある。
資材購買もまた営業である。そう簡単に技術グループを紹介することはない。その前に販売員を観察し、多くの情報入手をするため質問をどんどんしてくる。それに答えてばかりではなく、販売員からも色々聞きたいことを質問しなくてはならない。技術の人を紹介してもらいたいのはやまやまだが、いきなり技術陣を紹介して下さいと言っても相手にはされない。
紹介してもらうには資材購買と何回か会って、多くの会話を通して販売員の人となりや技量を知ってもらうか、会話を通してどこかにその突破口を見つけるかなのだ。販売員はその目標を達成して、いよいよ開発技術に会うことになる。
技術から案件の話が出ているわけではない。だから技術者はどういう気持ちで会ってくれるのかは不明である。両者は互いに異質であるから、資材購買の時と同じように会った瞬間から情報を取り合える関係ではない。だからといって、自己紹介的な会社案内や新商品の説明だけで、後は相手の出方を待つというのでは販売員として芸がない。
墓売りのウィリー・ゲールが幾人もの恐そうな見込み客に会って分かったのは、墓を買ってくれる人は結構な紳士が多いということであったし、その紳士とさまざまな会話をしている時に、興味のある何かに触れると、大きな耳をこちらに傾けてくれる人であることを知った。そしてその何かを突破口にすることを学んだ。
機器部品の販売員の場合、相手は自分の知らない技術を持ってモノ造りをしている人で、余計な事を言わないというイメージを持っている。しかし、ウィリー・ゲールのように多くの新規技術に会えばわかることがある。開発技術者は好奇心が強い。忙しい人や花形部門の人ほど好奇心の範囲は広い。販売員が持ち込む商品のことを知りたがっているわけではない。デスクに座って設計に没頭しているわけではない。適当に休憩タイムを取り、会議の多い一日だったり、新製品の構想に一日中耽っていたり、次の仕事のための充電タイムだったり、何かに悩んでもいる。
だから販売員は自分が言いたいことを言って後は相手の出方を待つのではなく、彼らのことを知ろうとするのが先決なのである。