革新生む「創造力」と「誘導力」
技術者のイノベーションと企画力
1:企画力とその盲点
「技術者にとって求められるのは、イノベーションである」。いろいろなところで見聞きすることです。当社がさまざまな企業をサポートするにあたり、イノベーションが大切であることに疑いの余地はありません。ただ、何より大切なのは、「イノベーションのために必要となる具体的なスキルは何か」を理解することです。
そこで複数のコラムに分け、技術者にとってのイノベーション、ならびにそれと密接にかかわる企画力について考えてみたいと思います。
イノベーションを実現するためには企画力は必要条件
イノベーションという言葉は先進的なイメージを与えることもあり、さまざまなところでよく使われます。その一方でイノベーションの基本となるものが何か、という問いに対しては即答できない方が多いのが現実です。
特に技術者はイノベーションの大切さを痛感しながらも、「知っていることが最重要である」という「専門性至上主義」が一種の呪縛となり、未知の部分に対してなかなか踏み出すことができないのではないでしょうか。専門性至上主義による弊害や、この特性を配慮しての技術者育成への留意点については過去のコラムも合わせてご覧ください。
実はイノベーションを技術者が実現するには多くの要素がありますが、必須ともいうべき必要条件的スキルが、「企画力である」と聴くと腑に落ちる方も居るかもしれません。多くの要素があるため、必要十分条件でないことに注意が必要です。企画力があれば必ずイノベーションを実現できるというわけではないのです。そのため企画力はあくまで必要条件なのです。
とはいえ、企画力というスキルがイノベーションへの大きな一歩であることは間違いありません。
企画力の主要素は2つ
では、企画力というスキルをもう少し分解してみていきましょう。技術者向けに当社で行う研修で必ず問いかけるものがあります。それは、「企画力というものはどのようなスキルのことを言うと思いますか」というものです。
多くの技術者の方が答えるのが、「新しいものやアイデアを生み出す」というものです。言い換えると「創造力」とも言えます。
結論から言うとこれは正解です。イノベーションの基本ともいえる新しいアイデアを生み出す創造が企画力の基本であることに疑いの余地はありません。しかしもう一つあることを忘れてしまっています。それが、「誘導力」です。企画力はこの誘導力が合わさって初めて力を発揮します。
誘導力というのは、「自らの考えたアイデアを理解してもらい、味方になってもらう」という力のことです。そして、誘導力の大切さを理解している技術者は皆無といっても過言ではありません。つまり「盲点」なのです。逆にいうと技術者が誘導力をみにつければ大きなイノベーションを発揮する可能性が高める重要な「武器」となるのです。
営業部門では常識の誘導力
誘導力は技術者にとって盲点ですが、誘導力の良き先導者となる部門の方が社内にいるケースもあります。それは、「営業部門」の方です。
営業部門は一般的に顧客と最も近いところに居ます。そのため、顧客をわかりやすく自社製品やサービスを説明し、先方のニーズを吸い上げながら適したものを提案するという「誘導」は必須です。
ある意味、営業の方は誘導力こそが技術者にとっての技術力とも言えます。こう聞くと営業部門の方が技術者に誘導力を教示できるのではないかと思われるかもしれません。当然ながら場合によっては機能するでしょう。しかし、それほど単純な話でもありません。
営業部門の誘導力は技術者へ応用できるか
詳細は今後の連載でも述べますが、営業部門の方が考える誘導力をそのまま技術者に当てはめることは困難です。技術者である以上、技術者の強みを生かさないと最終目的であるイノベーションにつながらないからです。営業部門は技術者とはまた別の強みとする要素があり、それは技術者には当てはまらないのです。
職種による分業が比較的きちんと整備されている日本企業文化の強みを生かす方が、結果としてグローバル競争を生き抜くために有利な戦略立案へとつなげられます。そして、技術者の強みを生かした企画力を身に付けることが、「自発的に行動し、課題解決できるエキスパート」という理想像への最短の道となるのです。
いかがでしたでしょうか。本コラムでは技術者のイノベーションのためには企画力が重要かつ必要条件であり、その企画力には新しいアイデアを生み出す「創造力」に加え、「誘導力」が必要であることを述べました。技術者向けの企画力の重要さは技術者ができる限り若い段階で理解することが大切であるため、当社の新人技術者研修のプログラムでも取り入れています。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。