「若手技術者に技術の本質を理解させるための具体的なアプローチがわからない」という時には、「紙媒体の専門書で調べる」という徹底をさせてください。
引き続き顧問先で本年入社の新人技術者の教育を行っています。ある顧問先の新人技術者に以下のような課題を出しました。研修の最中に用語が出てきたため、念のため意味を確認するためでした。
「熱伝導率は知ってる?」と聴きました。その新人技術者たちは一斉に「もちろん知っています」と答えました。次にその言葉の意味を説明して、といいました。すると数人が、「熱の伝わりやすさ」と答えました。表現が違えど、おおむね同じ回答でした。さらに突っ込んで、「では、熱伝導率を技術的観点から具体的に説明して」と言ったところ、いろいろ頑張って考えてくれていましたが、なかなかこちらが期待する答えが出てきません。
技術者全般によくあることですが、わかっているということであっても、突き詰めていくと、「感覚的に何となくわかっている」ということになります。これはエンジニアリングではなく、「カンジニアリング」です。これでは本質を本当に理解しているとは言えません。
これを自ら気が付き、「詳細についてはわかっていない部分もありますので、調べます」という積極的な技術者もいますが、多くが「う~ん」と悩んで固まってしまいます。そして、次回までの課題とするので、調べておいてください、と伝え、知識の習得を狙うのが私の一般的な進め方です。
ここで一つ、近年の技術者に見られる典型的な挙動があります。自主的に調べる技術者も言われて調べる技術者も、共通するのが、「インターネットで調べて、その内容で結論を出す」というケースです。これは時代である故否定することではなく、また、初動としてインターネットを使うこと自体は妥当なアプローチです。しかし問題は、「インターネットの情報で結論を出す」という「技術的な調査を完結させてしまう」という着地方法です。
インターネットはさまざまな情報を共有する無くてはならないツールとなっています。しかしその情報は当然ながら玉石混交の状態であり、どれが正確な情報なのかわかりません。そのため、技術的な本質を調べるにあたっては、複数の専門家による校閲がついている、「紙媒体の専門書」が妥当であるというのが現段階での私の考えです。特に上記の例で出したような、基本的な技術については、比較的昔の段階で本質的な部分が解明されています。どれだけ複雑に見える事象も、一つ一つ分解していくと基本的な技術的挙動に行きつくのです。
その時に重要なのは、「技術の本質的な部分を理解できているか」ということであり、その判断基準となるのは、「第三者にその本質をわかりやすく説明できるか否か」で判断できます。
では、熱伝導率の技術的観点から具体的に説明する場合、一文で述べようとすると、「同じ温度条件にある面に対し、単位時間に、単位面積当たりを垂直に通過する熱量とその温度勾配の比」となります。本質ではありますが、若干わかりにくいかもしれません。実は模範解答的には、上記の説明をするにあたり以下の熱伝導率を示す式を使いながら説明できれば正解です。
結局のところ、本質的な部分をきちんと説明するには、「数式で物事を説明できる」という、技術者のグローバル言語の数学を扱えるか否かにかかってくるのだと思います。一つ一つの基本的な言葉の本質を、数式を中心に理解させるというのは、技術者の指導においては必要最低条件とも言えます。
専門性至上主義故、「知っている」ということに強い執着を見せる技術者。その執着を上手く利用し、本質を理解させるということを、若いうちに徹底することが重要だと考えます。新人技術者育成の一助になれば幸いです。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。