制御盤2030ホワイトペーパー公開、2030年に向けて進化する制御盤

デジタル技術によって製造業が大きな変革の波に直面するなか、日本電機工業会(JEMA)は製造業の将来像を想像し、その対応策を検討するための提言書「製造業2030」をまとめてきた。2019年11月には制御盤に焦点を絞った「制御盤2030」をホワイトペーパー化して公表したので、その内容について紹介する。

ホワイトペーパー表紙

 

「製造業2030」と「制御盤2030」

製造業2030は、2030年の製造業の将来像を描き、電機業界に有効な示唆を与えることを目的に、JEMAのスマートマニュファクチャリング特別委員会の活動として2015年からスタートした。提言書としては、これまでに2015年版、16年版、17年版、18年版が公開されている。

概要としては、Society5.0やConnected Industriesといった産業政策目標を実現する手段として「FBM(フレキシブル ビジネス アンド マニュファクチャリング)」を提唱。

FBMは、製造業を構成する各要素がリアルタイムでフレキシブル、有機的に働き、ビジネスモデルや機能の組み合わせを変えて柔軟に対応できる仕組み。ここでいう各要素とは開発・設計や製造、調達など。これまで製造業は商品企画開発・設計生産保守というエンジニアリングチェーンと、調達物流販売サービスというサプライチェーンという2つの大きな流れで製品が作られ、顧客に価値を提供してきた。いまチェーンを構成する要素それぞれが価値を生むようになってきており、それをもっと活用し、進化させていこうと考えている。

FBMの基本概念

 

制御盤2030は、製造業2030の世界における制御盤のあり方を考え、制御盤を取り巻く環境とその変化、2030年での制御盤のあるべき姿と新たなビジネスについて予測・分析をしてまとめている。

すでに制御盤と制御盤業界を取り巻くすべてに変化が訪れている。

制御盤本体では、生産設備の高機能化によって盤内に設置されるFA機器が増加し配線が複雑化。FA機器が小型化し、省スペース化や筐体レス化が始まっている。また制御盤の設計・製造作業についても、盤設計の効率化システムや協働ロボットを使った作業補助など新しいツールが出てきて、2030年の姿への道の萌芽が見られている。

 

進化し変化する制御盤業界

さらに今後は、産業設備のネットワーク化によって共通言語の採用やサイバーセキュリティが求められるようになったり、多機能やアプリケーション特化など顧客の要望の多様化なども想定されている。コストも製品単体に加えてライフサイクル全体を見据えた最適化が求められるようになるとしている。

2030年時点で制御盤はどうなっているか? 生産設備の高機能化によって制御盤や盤内機器も進化すると同時に、設計と製造技術が発展して効率化する。これにより従来の制御盤のビジネスモデルでは差別化が難しくなり、そこに何かしらの変化が必要であると指摘している。

具体的には、制御盤設計については、これまで電気技術者と機械設計者で図面がバラバラ、異なるツールが使われていたのに対し、2030年にはツールのデータ・フォーマットの連携が進み、設計が効率化される。

組み立て作業についても、上記のデータ連携が進むことによって電気回路図から配線指示書、機器配置図面からロボットプログラムが自動生成されるような時代が到来。これによって人手で行っていた作業がロボットでも担えるようになり、人とロボットが協働で組み立て作業を行い、省力化できるようになる。

そして、標準化が進んで設計と組み立てが平準化されるようになると、小型化やコストダウンなど制御盤の設計・製造で価値を付けるのは難しくなると予想。そのため、例えば制御盤の予知保全や遠隔からの見える化など新たな差別化要素が求められるようになり、そのためには制御盤メーカー単独でなく、機器メーカーとの共創も大切になってくるだろうとしている。

制御盤とそこに使われている技術は年々進化し、5Gのような新しい技術によってさらなる変化が予想されている。

 

進化の1つ目は、モジュール化。ハードウエアではPLCや端子台、電源等のハードウエアが機能に応じて一つの塊になり、ソフトウエアもPLCの制御プログラムやCADデータ、受注・調達データなど機能単位でくくられたプログラムとして提供されている。イチから選定や設計、プログラミングをする必要がなくなり、組立時間や製造コストを低減し、効率化に貢献している。

2つ目は電線接続の合理化。制御盤製造作業のなかでも手間がかかると言われる電線接続について、ねじ式端子台からねじ締めやトルク管理が不要なスクリューレス端子台の採用が広がっている。スクリューレス端子台は配線作業時間の短縮、接続品質の安定、安全性の向上に効果的で、最近は大電流の接続部分にも使われるようになってきている。

3つ目は5Gによる信号線の無線化。製造現場での無線利用はまだ一部にとどまり、LPWAやWiFi、Bluetoothなどの利用は情報系に限られているが、5Gでは制御盤での制御信号無線としての利用可能性が期待されている。22年ころに高信頼低遅延無線が普及してくるとアプリケーションが増え、クラウドへPLC機能が遷移して制御盤内にはI/Oモジュールだけになるという予測もある。5Gが制御盤を大きく変える可能性を秘めていると言われる。

 

4つめは設計データフォーマットの国際標準化。メーカーに依存しないプログラムの標準フォーマットであるPLCopen XMLのように、設計データが標準化されると従来のツールメーカー以外からもサンプルが提供され、設計データ取引など新しいビジネスが生まれる可能性がある。

5つめは制御盤のバリューチェーンの全体最適化。デジタル化の進展にともなって制御盤製作でも板金、塗装、組配の担当業者が生産情報を共有するようになると、全体のシステム最適化が可能になるとしている。

6つめはサプライチェーンの進化。日東工業のキャビスタやEPLANのようにWEBを使った見積もりや発注が進んでいる。さらにこの動きが進むと、多品種小ロットの顧客ニーズに対応できるようになる。

7つめは、盤内機器のIoT化による保守・アフターサービスの高付加価値化。制御盤を構成する機器と現場の人がつながることで設備の状態監視や予知保全が可能になる。ライン変更や保守メンテナンスも素早く対応でき、メリットは大きいとしている。

 

新ビジネス創出の可能性

制御盤業界は、産業機械市場での新興国の台頭や最終製品の短命化や多様化によって、よりフレキシブルな設計・製造が求められている。また制御盤そのものに対しても、小型化や海外規格への対応、設計・製造プロセスの効率化といった最適化の要望が強まると予測。しかし制御盤はメーカーの異なるコンポーネンツで構成されるため最適化は難しい。

そこで新しい時代には、制御盤の価値に重点を置き、最適なモジュールを選定して、メーカーを調整し、さらに効率化した設計・製造プロセスで制御盤を最適化できるコーディネータ企業が誕生。彼らが統合プラットフォームを運営してソリューションを提供していくようになるだろうと予測。そうした時代に向け、モジュール化や標準化、プラットフォーム確立を進め、業界における共存を促して最適なコーディネータ企業、統合プラットフォームの構図を作る必要があるとしている。

 

制御盤2030ホワイトペーパーは、JEMAホームページから入手できる
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/pis/manufacturing2030.html

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