1980年代に入ったばかりの頃は、機器や部品営業にとっては昭和の成長拡大期の真っ只中であった。その頃の営業の基本的なスタンスは「売り上げは客先訪問の回数と客先滞在時間に比例する」というものであった。「とにかく客先へ行け! 社内に居るな!」という雰囲気がどの販売店にもあった。
客先へ行けば案件が発生し、商談が発生した。商品をPRすれば既設や新設の設備への使用検討が発生した。大袈裟に言えばそのくらいの需要が発生していた。平成に入っても昭和に育った営業の先輩達の口癖は「とにかく客先へ行け、社内には居るな」であった。
平成も数年経過するとその口癖はなくなった。それに代わって、競合切り替え型営業に移った。これは国内需要が鈍化したせいで競合が激しくなったからだ。いつの時代でも、どの業界でも、競合があればこれを叩いて勝利するのは世の習いである。
平成の機器部品営業の競合切り替えには特徴があった。競合に勝利するには戦いの武器となる商品が肝心である。しかし商品の良し悪しだけで勝負が決するものではない。平成の競合切り替え型の特徴は、営業の武器である商品の良し悪しに過度に頼りきった営業だった。
機器や部品という商品の特質を考えれば、商品の仕様や品質の良し悪し、あるいは機能の良し悪しで勝負は決まるのではないかと思ってしまう。だから顧客を守り、見込み客へ攻め込むために商品の長所や機能の特徴を習得したし、技術的知識やアプリケーションの勉強会も頻繁に行った。商品は多岐に亘り複雑・高機能の様相をますます帯びてきたために、商品に関する知識の習得を業界がこぞって推進した。その結果として、営業力とは商品力なりという平成の競合切り替え型営業が出来上がった。
戦いの現場では、自分の陣営の守りを固くし、相手の陣営に攻め入る時は、相手が守っている個所で一番弱い部分を突くという戦いの原則がある。だから相手構わず商品の特徴や機能の良さ、あるいは価格の優位を振り回せば勝てるのではない。競合切り替え型には販売員の持つ営業力や販売店の持つ総合力で戦うのが順当なのだ。そんなことは当たり前だと思っているのだろうが、実際には商品力だけで戦っていることに気付いていない。
こんな例がある。
機器や部品の日々の販売であるから、通常はそれほど大きな金額の取り引きではない。それでも時折、数百万円ぐらいの案件の打ち合わせはある。ところがある時に、数千万円の案件が開発設計から出た。販売員はメーカーの担当を動員して競合商品と対決した。数日後には、資材担当からは価格的に優位であると告げられた。大きな金額なので上司を通して社長の耳に入れた。その後、資材へ経過を聞きに何度か訪問したが、設計がまだ製品全体の検討が終わってないからという回答を受けて、販売員は首を長くして待った。この事例はまさに商品力のみで戦っている。
販売員は、自社の社長やメーカーの上層部と顧客の幹部を会わせる段取りを計るように動いて、総合力で戦う物件のはずだ。しかし平成期の営業は商品力で戦うのに長け、人間関係に絡む交渉力や情報収集力のような営業力をどのように使って戦うのかは、頭の片隅にもなくなっている。
令和新時代に入ってFA市場からにじみ出てくる新たな市場が見え隠れしている。そのような市場にどんどん顔を出して多くの経験を重ねれば、その市場に合った営業を構築できるのだろうが、現状の営業事情では多くの見込み客に会うのは困難だ。それ故に、新たな市場に出入りするやり方を先導するパイロットが必要になる。パイロットとは、見込み客に出会ってから商談レベルの話ができるようになるまでのアプローチの基本動作なのだ。