サーボモータ市場は反転攻勢、半導体製造・ロボットけん引

 

工場の自動化投資意欲高まる

サーボモータの市場は、2018年〜19年秋ごろまで中国市場を始め、国内外の景気停滞の影響から大きな需要の低迷が続いていたが、半導体製造装置市場の回復とともに底打ちから上昇基調に転じようとしている。

ただ、今年に入ってからのコロナウイルス問題がこの流れに再び大きな障害となってきている。しかし、基本的に人手不足や人件費上昇を背景にした工場の自動化投資意欲が高まることは確実で、中長期的には拡大基調が続きそうだ。

技術的には高分解による高速・高精度制御や高トルク化、調整作業の簡素化、省配線化、安全対策などを中心に取り組まれ、さらにネットワーク化への対応も注目されている。

 

日本電機工業会(JEMA)がまとめている生産統計によると、サーボモータの19年度(19年4月〜20年3月)の生産額は819億円(前年度比71.4%)、サーボアンプは1105億円(同78.6%)で、合わせて1924億円になる見通し。19年度は中国市場でのスマホ市場の減速、米中の貿易摩擦の激化などを大きな要因に、その変調の影響がアジアから欧米まで全世界に波及し、30%近い大きな落ち込みとなった。中でも、工作機械、ロボット、半導体製造装置の主要3分野が停滞した。

JEMAでは20年度は再び上昇に転じるとして、サーボモータを907億円(同110.7%)、サーボアンプを1222億円(同110.7%)とし、合わせて2129億円を予測。いずれも2桁増を見込んでいる。特に半導体製造装置がスマホや5G関連の需要増から大きく牽引すると見ている。

ただ、この予測にはコロナウイルス問題が現在のようなリーマンショックを上回るような事態に発展することは見込んでいない。いまのところコロナウイルス問題の解決時期の見通しは立っておらず与える影響を予測できないが、大きなダメージを与えることは間違いない。ただ、基本的に人手不足や人件費上昇を背景にした工場の自動化投資意欲は高まることは確実で中長期的には拡大基調が続きそうだ。

 

中でも、半導体製造装置とロボット向けは確実に伸長する。ロボットはサーボモータとセンサで構成されているともいえるほどサーボモータの大きな市場で、ロボットの伸長率とサーボモータの伸長率はほぼ比例する。ロボットがサーボモータの市場拡大の牽引役として果たす役割は大きい。

ロボットは人手不足に加え、自動機やロボットででしかない作れないものも増えており、自動化投資が進んでいる。用途も工場での作業に使用する産業用に加え、非製造業でもホテルでの案愛サービスや外食産業の人手補完用、警備や清掃などといった幅広い用途で採用が進みつつある。

サーボモータ各社は、使いやすさに重点を置いた製品開発を進めている。複雑な制御調整が簡単にできるオートチューニング機能、機械の振動を抑えながら短時間で位置決めを行う制振制御技術、作業の安全を確保するセーフティ制御技術、さらに効率的な生産を進めるネットワーク化対応などが開発のポイントとなっている。

 

オートチューニングでは、ワンタッチで機械の共振制御などにも対応できるよう、各社が独自の機能を搭載している。制振制御技術ではアーム先端の振動に加え、装置本体の残留振動も抑制できる低周波抑制アルゴリズムを搭載し、さらなる高精度調整を可能にしている。

高速化では、速度周波数応答3.5kHz、26ビットロータリーエンコーダの標準搭載で、6700万パルス/revを超える高分解能製品もラインアップされ、位置決め整定時間を大幅に短縮し、高精度な位置決めや微細加工を可能にしている。整定時間を短縮することは、業務の効率化につながり、機械・システムの生産性が向上する。

また、サーボモータの制御に関しては、指令応答特性を高めるフィードフォワード機能(FF機能)と、外乱抑制特性を高めるフィードバック制御(FB制御)があるが、FF制御とFB制御を完全に分離して制御を行うことができる、2自由度制御方式を搭載したサーボモータも使われている。

 

両制御を完全に分離することで、より高速・高精度なモータ制御が実現する。例えば電子部品実装機では、部品搭載ヘッドの振動を抑えた高速実装タクトの実現や、金属加工機では、摩擦や粘性の影響を少なくし、切断面を滑らかにするといった高精度な加工が実現できる。

さらに、1台のアンプで最大3台(3軸)のサーボモータができる機種も評価が高まっている。

最近注目されているのは、アンプの診断機能を使ったサーボモータの予知診断機能である。サーボモータの稼働時間などを計測して、故障などを予知することで稼働停止などに伴うトラブルを未然に防止することにつながる。

 

「使いやすさ」に重点

そのほか、小型化の一環として動力と信号をひとつのコネクタで接続できるようにすることで、コネクタのスペース削減し、コンパクト化を実現している。

小型・軽量化の例では、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するダイレクトドライブ(DD)モータも注目されている。DDモータは薄型でシンプル構造が特徴。薄型を実現するために磁石やコイルを工夫してトルク密度を上げており、エンコーダの配置にも改良を加えている。機構が単純になってコンパクト化が可能となる。故障の発生や外的トラブルの要因も減らせ、低コストや省資源というメリットにもつながる。

2軸一体型DDモータでは、モータ中央部に2つの独立した回転軸を持たせることで別々の動作を同時に行うことが可能になり、ロボットハンドリングなどに有効だ。2軸のアンプを使用すれば制御盤のコンパクト化も図れる。

 

リニアサーボモータの動向も注目されている。回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べ、推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなどに強みを発揮できる。特に、小型で速い動きが求められている機械などに最適である。リニアサーボモータでは、高ショット往復運転のリニアアクチュエータが半導体テストハンドラ装置などによく使用されているが、新たにZ軸制御できるようにした開発も進んでいる。

コントローラとサーボアンプ間のネットワーク対応も注目されている。IoT、AI、見える化などが求められるなかで、ネットワーク接続の重要性は増しているからだ。イーサネット技術をベースにした通信が主流で、通信速度1Gbpsを実現した機種も増えてきた。特にこのところ注目されているのが、イーサネットを拡張し、産業用ネットワークとIT用ネットワークをシームレスに統合するTSN技術である。すでにCC-Link IE TSNに対応したサーボモータが販売開始されている。MECHATROLINKをはじめ、他のネットワークでもTSNへの対応を始めており、近々ネットワークの主流となってくるという見方も強まっている。

さらに、エンコーダのネットワーク規格も公開され始めている。同一メーカー間サーボモータとサーボアンプの接続では問題ないが、異メーカーのサーボモータとアンプの接続が増加傾向にある中で、エンコーダのネットワークもオープン化を求める動きが強まっている。エンコーダ情報はサーボモータの生命線ともいえる重要な部分であるだけに、今後の動向が注目される。

 

セーフティへの対応も進んでいる。サーボモータに関連する規格として、ISO13849-1、IE C61508シリーズ、IEC62061、IEC60204-1、IEC61800-5-2などがあるが、このうちIEC60204-1は、機械の電気装置に関する要求事項を定めた規格で、停止の制御機能について定義されている。

可変速ドライブシステムの機能安全規格であるIEC61800-5-2への対応も行われている。安全規格への対応は特に、自動車製造関連の用途で求められることが多く、サーボモータ各社のほとんどが対応を行っている。

このほか、厳しい環境下でも使用できるよう保護構造IP65などを標準採用したタイプや、IP67対応品も増えている。

低剛性への対応もポイントで、特に高速応答の必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。

搬送機械、繊維機械などでは、1台のマシンに使用するモータ数が多く、特にサーボアンプの小型化や各軸のゲインチューニング工数の短縮が求められる。このため、回路基板をワンボード化するなど、高密度実装と最適放熱設計での超小型サーボアンプもある。

 

今後注目されるのが、センサレスサーボモータの動向だ。インダクションモータの付加価値を上げたともいえ、エンコーダなしで電圧および電流からモータの速度と位置を検出して、高精度な速度制御や簡易な位置決め制御が実現できる。しかも負荷変動(0〜100%)に関係なく安定した速度で運転や位置決めを実現でき、位置決め精度も高い。エンコーダを使用しないため、小型化が可能で機械の省スペース化にもつながる。また、部品点数が少なくなることで、トラブルも少なくなり、メンテナンス性も良くなる。

IoTと連携したものづくりが志向される中で、装置・システムでのサーボモータの果たす役割はますます高まっている。特定の機能に特化した開発も志向されつつあり、また、ネットワークの特性を生かしたサポート対応も期待される。TCO(総所有コスト)削減に向けた次のステップアップへ取り組みがますます加速しそうだ。

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