【トップインタビュー】コグネックス、FA画像処理におけるAI・ディープラーニング戦略

マシンビジョンとディープラーニング
世界トップシェア コグネックスのAI戦略

 IoTやスマートファクトリーのキーテクノロジーとなるセンサ。なかでも画像処理技術の進化は目覚ましく、AIやディープラーニングと組み合わせて、もうワンランク上の自動化・効率化を実現している。そんなFA・産業領域における画像処理の現状について、マシンビジョンの世界トップメーカー・コグネックスの日本法人トップの立脇竜氏に話を聞いた。

マシンビジョン専業の世界トップメーカー

ーー御社(コグネックス)について

 マシンビジョンには「GIGI」と言われる4つのアプリケーション、GUIDE(ガイダンス)、IDENTIFY(識別)、GAUGE(測定)、INSPECT(検査)があり、ほとんどのメーカーは識別や検査だけなど限られた領域にのみ強みをもっている。。それに対し当社は全領域を網羅して強みを持っている世界でも数少ないメーカーのひとつだ。
 マシンビジョン専業メーカーとして39年の歴史があり、世界20カ国以上に拠点を構え、2万5000社以上の顧客に対し、200万台以上のシステムを出荷してきた。2019年の売上高は7億2500万ドル(約808億円)となっている。

 製品としては、大別してマシンビジョンシステムとバーコードリーダーという2つの製品を提供している。マシンビジョンシステムは、ソフトウェアとしてルールベースの画像処理ソフト「VisionPro」と、AIを使ったディープラーニング画像処理ソフト「VisionPro ViDi」、ハードウェア製品としてスマートカメラ「In-Sight」シリーズ、3D画像処理システム等がある。
 バーコードリーダー「DataMan」シリーズは、スマートカメラとコード読取機能一体型、固定式リーダー、スマートフォンのようなモバイル型、ハンドヘルド型を提供している。

 顧客の製品の低コスト化と高品質な製品製造をマシンビジョンを通して実際に可能にする製品を提供するのが当社のこだわり。毎年、売上の10〜14%を研究開発に回し、19年も約120億円を投資した。これだけの資金をマシンビジョンだけに注ぎ、より良い製品づくりを進めている。

ディープラーニング、物流、3D、インダストリー4.0に注力

ーーマシンビジョンにおける日本市場の位置づけについて

 国内の労働力不足と海外での賃金上昇によってマシンビジョン市場は急速に拡大している。

 日本の製造業界は1990年代終わり頃からメーカー各社が海外戦略を強め、安い労働力を求めて生産拠点を国外に移していった。しかし今は中国は年平均9%で賃金が上がり続けるなど、当初の想定とは状況が変わってきている。また国内は2010年を境に人口が減り始め、労働力不足が深刻化している。かつてのような海外で安く生産するというビジネスモデルが成り立たなくなり、自動化へのニーズが年々強くなっている。

 それでも日本には研究開発、設計、生産技術、製造、品質管理などマザー工場としての機能があり、現場改善や品質改善に対する意識が高く、最新の技術に関心を持つ人材が多く在籍している。また生産拠点を海外に出さなかった企業も、高い技術レベルで現場を維持し、変化に対して何か手を打たなければならないと思っている人が多い。

 日本はこうした人材が多く、メーカーとしてそこにアプローチできるのは大きい。特にFAやマシンビジョン業界では、世界のなかでも日本のプレゼンスは高く、コグネックス全体にとって重要な市場と位置づけている。日本市場に対し、ビジョンを使って人間よりも速く、高品質な個体識別技術を提供し、これまで人海戦術で行っていた検査工程のオートメーション化、効率化を支援している。

ーー具体的にはどういった取り組みを?

 現在、注力しているのは「ロジスティクス」「3Dビジョン」「インダストリー4・0」「ディープラーニング」の4分野。

 ロジスティクスは、世界的にEコマースが発達し、物流では多品種小ロットの個体識別に対応しなければいけなくなっている。特に小売業がサプライチェーン構築のため、バーコードリーダーや3D画像システムなどに多額の設備投資を行っている。

 3Dビジョンは3Dレーザースキャナと3D変位センサを展開し、エリアスキャンカメラで画像を一発で取って3D化でき、簡単に使えるのが特長だ。FAで詳細な3D検査に採用され、順調に伸びている。

 インダストリー4・0は、スマートファクトリーやIIoTなど工場内で機器同士をつなげて使うニーズが高く、当社の製品群とPLCなど生産設備とをつなぎやすくしている。日本では三菱電機と戦略的パートナーとなり、FA全体に対してインダストリー4・0を支える役目を果たしている。

 マシンビジョンにおける「ディープラーニング」は今もっとも注力している分野だ。

ディープラーニングが起こしたマシンビジョンの大変革

ーーマシンビジョンにおけるディープラーニングについて

 これまでの画像処理はルールベースが主流だったが、そこにディープラーニングが加わることで画像処理が進化し、マシンビジョンに大きな変革が起きている。

 ルールベースは、高精度アライメントや計測、コード読取りなどルールが決めやすいもの、安定した形状の識別を得意としている。一方、ディープラーニングの場合、検査や歪んだ部品の位置計測、変形した文字のOCRなど予測できない形状の変化の識別を得意とする。ルールベースでは想像しきれていない問題や、まだ発生していない事象に対しても、学習を通じてロジックを自動で作成して用意し、いざ問題が起きた時に対応できる。検査工程で人が目視して脳で判断しているプロセスに近いことを行い、さらにコンピュータをベースとして人よりも正確にできるのがディープラーニングで、これまで以上に正確なGIGIができるようになる。

 なぜディープラーニングが必要かと言うと、生産される製品の種類が増え、小ロット多品種になり、これまでのルールには収まらない、予測できない不良やエラーが増加している。例えばリチウムイオンバッテリーの生産現場ではとても精密で高度な作り方をしているにも関わらずエラーが頻発している。製品が高度化すればするほどエラーは出やすくなり、その種類や数が増えてくる。それに対応できるのがディープラーニングだ。

ViDiでマシンビジョンのディープラーニングのシェアトップ

ーー御社のディープラーニングに対する取り組みは?

 当社は2018年6月、世界で初めて官能的検査を自動化できるディープラーニングベースの画像処理ソフトウェア「VisionPro ViDi(以下ViDi)」を発売した。

 数年前からFA業界ではディープラーニングがバズワードとなり、関連製品を出しているAI企業もあるが、実際に製造現場の本ラインで使われているものはほとんどなく、POCや検証レベルだ。それに対してViDiは世界中で数多くの現場で導入され、日本でもこれまでに300以上のライセンス購入があり、生産ラインに展開されている。
 事実、マシンビジョンのディープラーニングのグローバル市場では、当社が34・3%でトップシェアを占め、28・6%の第2位のSUALABも昨年、当社が買収した。市場の3分の2を当社が押さえている。

 ViDiが生産ラインで使われている最大の理由は「使いやすさ」にある。通常、ディープラーニングの画像処理ロジックを作るには、数十万から100万枚の画像を用意して、GPUを搭載したハイパワーのPCで長時間学習させる必要がある。
 それに対しViDiは、数十枚から100枚、1000枚程度の画像でロジックが完成する。またロジックの作成も、画面上の指示に従っていくだけのコンフィグ形式で行い、プログラミングをする必要がない。画像を用意してロジックを作成する手間も、時間も少なくて済む。
 これは長年、マシンビジョンで培ってきたノウハウと、FAの画像処理に特化して検査や検出にフォーカスしているおかげだ。自動車やエレクトロニクス、食品や医薬品業界など、幅広い産業で採用されている。

ディープラーニングに必要なすべてをオールインワン In-Sight D900

ーー新製品「In-Sight D900」について

 より簡単で低コストで導入でき、ディープラーニングへのハードルを下げ、もっと汎用的なアプリケーションにも使ってもらうための新製品が「In-Sight D900(以下D900)」だ。ViDiの成功をベースに、そのノウハウをスマートカメラに詰め込んだ。

 ディープラーニングを始めるには、ソフトウェアとしてのViDi以外にもハードウェアとしてカメラや照明、レンズ、学習と制御のためのパワフルなPCが必要となる。それらを選定し、検証もしなければならない。それに対しD900は、GPU搭載スマートカメラと、ソフトウェアとしてViDi、レンズや照明などの周辺機器もセットになったディープラーニングのオールインワンパッケージになっている。外観や見た目は従来のスマートカメラと同じなのでレンズや照明、フィルタ等は豊富に揃っている。選定の手間が省け、ワンタッチで付け替えができる。設置や取り付けも簡単だ。

 ロジックの作成から現場で使うまでのプロセスも、WindowsPCにインストールしたVIDIで数十枚の画像からディープラーニングのロジックを作り、それをD900に入れて現場に設置すれば、すぐにディープラーニングによる検査を始められる。作成したロジックはD900スマートカメラ内で動くので、別ラインや別工場へ横展開する際はD900スマートカメラだけ購入すれば良く、コストパフォーマンスにも優れている。

 また、用途に応じて「ViDi check」「ViDi Reader」「ViDi Detect」の3種類を提供し、これらをベースとすることで稼働開始までの設計工数を減らすことができる。

 アッセンブリ検証に特化した「ViDi Check」は、所定の場所に正しいものがあるかどうかのチェックに適している。例えばチョコレートの詰め合わせの生産ラインで使われているケースでは、仕切りのなかに種類の違うチョコレートが1つずつ入っていて、種類が同じでも個体差が大きいのもある。ナッツチョコレートの場合、ナッツの配置はそれぞれに異なり、ルールベースでそれを定義するのは複雑で不可能だ。それに対しViDiは、人の目と脳のように個体差を吸収しながら識別し、この場所にはこの種類が入るというロジックを簡単に作り、検査を自動化できる。

 また自動車のドアパネルの検査工程では、似たような多くの部品が使われ、その取り付け間違いがよく起きる。部品点数が多く、これもルールベースでロジックを作るのは大変だが、ViDiは画像を読み込ませるだけでロジックが完成し、検査を自動化できる。

 「ViDi Reader」は、文字やバーコード、2次元コードなど読取りのOCR機能の強化に役立つ。刻印や印刷された文字やコードは、照明があたると反射して光ったり、長年使うと摩擦でかすれ、一部が欠けてしまうことがある。「ViDi Reader」では特長が残っていれば、人間のように元の文字やコードを類推して答えを導き出すことができる。

 欠陥検出用の「ViDi Detect」は、良品画像を読み込ませて学習し、そこから外れたものを不良としてはじくロジックを作成する。例えばスマートフォンの小さな部品は、少しの精度誤差によって取り付けが不安定になる。そうした微妙な違いも検出してエラーを出すことができる。また錠剤の生産ラインでは、大量に流れてくる錠剤のなかから不良の検出に使われている。

 これまでViDi単体では、ルールベースでは難しい、不可能な検査をディープラーニングを使って効率化しようというハイエンドな領域を狙って提供してきた。一方D900は、VIDI単体よりも価格を抑えてディープラーニングへのハードルを下げ、もっと幅広いアプリケーションに使ってもらえるようにしている。

ルールベースとディープラーニング 融合/使い分けで画像処理を強化

ーーディープラーニングの普及に向けて

 ディープラーニングやAIがバズワードになっていると言ったが、まだ製造現場の人々にそれを使うメリットが浸透していないという印象だ。これまで導入した案件を見ても、経営層や管理者層が興味を持ち、そこから製造現場に降りていくケースが多い。現場で実際に使う人々への理解を深めていく必要がある。
 よく現場に近いお客様からは、ディープラーニングやAIはそのロジックがどうなっているのか、なぜそうなったのかの道筋が明確でないと結果だけでは工程改善につなげられないという指摘をいただく。そこで意見がぶつかって、なかなか導入に踏み切ることができないということがある。

 私の認識は、ディープラーニングとルールベースの画像処理は別物ではなく、ルールベースの延長線上にディープラーニングがあると思っている。今まで工数がかかっていたロジックを作る作業を効率化でき、さらにルールベースでは不可能だった検査に対しても自動化できるようになるというツールだ。こうしたメッセージを多く届けていかなければならない。

 ViDiはルールベースのロジックにディープラーニングのロジックを簡単に組み合わせることができる。ViDiで作ったロジックは「VisionPro」に簡単に入れ込むことができ、その逆も可能だ。ルールベースのロジックをディープラーニングで強化し、逆にディープラーニングをルールベースで強化することもできる。

 どんな検査でもAIやディープラーニングを使って自動化すればいいという訳ではなく、ルールベースとディープラーニングをうまく使いこなすことが大事。当社はそのプラットフォームを提供し、効率化に貢献したい。

ーー今後について
 
 日本は世界で最もディープラーニングの導入が進んでいて、ニーズも高い先進地域だ。一方で、昔ながらの古いインターフェースも多く使われている。その置き換え需要とディープラーニング需要の両方がある有望かつ重要な市場だ。より使いやすく、効率化を実現できる製品を提供して存在感を強めていく。
 またディープラーニングなど最先端のマシンビジョンを試せる場として、6月に東京本社内にショールームを開設する予定だ。実機を見ると同時に、デモや検証、トレーニングもできる体制を整え、お客様に当社の技術とカルチャーを体験していただけるようにする。

参考:コグネックス

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