高まる自動化 ロボット活用 生産維持・拡大へ
コロナ禍のなかでも日本の製造業は現場の努力とリモートワークなどのデジタル技術の活用で生産を維持しているが、現場の人々への負担が大きく、決して好ましいことではない。今後の自動化に向けて期待されるのがロボットであり、ロボットシステムインテグレータ(ロボットSI)の活躍だ。
あらためて自動化におけるロボットSIの役割と課題について考える。
ロボットSIとは、自動化機器や情報処理機器を現場で使えるシステムに組み上げる役割を担う専門職。産業用ロボットはそれ単体では仕事ができない半完結製品であり、ロボットSIの知識と技術が加わって、生産設備として仕事ができる状態になる。
同じロボットを使ってもSIの技術で生産性は大きく差が出る。そのためロボットSIには、単に言われた通りの設備を作って納める下請け業者ではなく、ロボットや周辺機器のベンダーとエンドユーザーの間に立ち、最適なロボット自動化システム構築の主動的役割を果たすことが求められている。
エンドユーザーの要望を実現する最適解を明確化し、ロボットやFA機器メーカーが供給しているさまざま機器やソリューションを評価・選別して組み合わせて最適な自動化を実現するのがロボットSIの仕事であり、腕の見せどころだ。
しかし実際にはエンドユーザーやロボットメーカーの下請けとなっていることが多い。日本には1000以上のロボットSIがあり、そのほとんどが中小企業で経営基盤が弱く、人材が不足している。
今後自動化需要はますます高まっていくのは確実だ。増えた受注に対応しつつ、皆がロボットを使いこなす社会を作るためにはロボットSIの働きが重要。そのためロボットSIの事業拡大と経営基盤の強化、社会的地位の向上が喫緊の課題となっている。
構想設計には正当な対価を
例えばロボットSIの収益モデルについて、現状はシステムの設計製造から立ち上げといった実際に手とモノが動いた対価が支払われる形が主流になっている。しかしモノが動く前からロボットSIはエンドユーザーの要望に応じて、どんな生産システムを作るかの設計の基礎となる仕様を決めて整理する構想設計を、自らの知見と技術を注ぎ、時間をかけて行っている。
現状、その構想設計はロボットSIの営業努力として無償提供されることが多く、これがロボットSIの成長を阻害している。そこで近年は、構想設計にきちんとした対価を求めてビジネスモデル化し、ロボットSIの収益モデルを変えていこうという動きが盛んになっている。
さらに、ロボットシステム構築の最上流の構想設計を鍛えることで、日本のロボットメーカーとSIが一緒になってロボット販売とシステム設計から構築までを担えるようになるとされ、ロボットシステムの輸出産業化に期待が集まっている。
業界を挙げて人材確保に注力
とは言え、個々のロボットSIの活動にも限界はある。特にロボットSIの技術力強化や人材確保・育成、社会的認知度の向上は1社では難しい。そこでロボットSIの業界団体として2018年に設立されたのが「FA・ロボットシステムインテグレーター協会(SIer協会)」だ。現在、正会員と協力会員合計で246社が参画している。
同会が特に力を入れているのが、システム構築に必要なスキルや知識の標準化と人材育成。人材育成と評価をセットとし、スキル標準化を進めて日本のロボットシステム標準を作って海外販売を目指している。その第一歩として20年にスキル標準に合わせた「SI検定」を開始する。基礎技術と安全管理を測る3級にはじまり、より高度な2級、1級の立ち上げも予定している。
またロボットSIとして働く人材の裾野の拡大と底上げを目指し、経産省とロボットメーカー、SIer協会、高専など産学連携による「未来ロボティクスエンジニア育成協議会(CHERSI)」も20年度から発足する予定だ。高専生や工業高校に向けてロボットSIに必要な基礎技術の提供や共同の教材開発、インターンや研修受け入れを積極的に行い、ロボットSIの人材確保を狙っている。
ロボットSIは昔からある仕事だが、今までは裏方として日本の製造業を支えてきた。このデジタル変革のなかで、メーカーがモノ売りからコト売りへ、製品単品からソリューション販売へとシフトしていく中で、現場の知見と技術を持つロボットSIにとってはチャンス。デジタル化に困っているエンドユーザー、自社製品を広く販売したいメーカーをつなぐ役割として重要である、ロボット自動化には欠かせない存在になっている。