なぜ補助金で失敗する企業が増加するのか?(下)
悪徳のSIerや大学教授が力を持つ訳は?
前回の記事で、SIerや大学教授に薦められるままに導入したロボットシステムが無駄になった一例を挙げ、それは氷山の一角に過ぎない話をしました。
では、どうしてこのような悪徳のSIerや大学教授が日本に多く存在するのか、しかも、なぜそういう者たちが権力を持っているのか、を記載いたします。
補助金の申請書はどうチェックされるか
それを知る為に、まず日本では補助金の申請書がどのようにチェックされるかを述べます。
中小企業庁や経済産業省に届く補助金の申請書は、一回の補助金で約1万数千件だそうです。それを1機関のわずかな人数で、しかも短期間でチェックをします。
もうお分かりだと思いますが、全ての申請書をじっくりチェックする事は不可能です。しかも、チェックをする担当者が私のようなロボットのプロではありません。その為(現在、少しは変わっていると思いますが)所定のキーワード、例えば『最先端』『地域活性』等の単語を検索し、ふるいにかけ、あとはその信憑性を簡略にチェックします。
お役人、SIer、教授の馴れ合い
補助金を採択させたいSIer(もしくは企業とSIerの仲立ちをしている商社)は、そのキーワード(採択されやすい単語)を喉から手が出るほど知りたいわけですが、経済産業省・中小企業庁のお役人を接待すると法律違反になります。
ではどうするかというと、まずそのキーワードを大学の教授がお役人から聞き出します。そして、今度はSIerが大学の教授を接待漬けにし、礼金もたんまり渡してそのキーワードを聞き出す、というカラクリです。とても信じがたい話ですが、これが現実です。
海外の補助金申請はどうチェックされている?
もちろん、大学の教授やSIerの中には、富士ロボットと同様、真面目にその企業の発展や日本の将来を考えて取り組んでいる方々もいますが、残念ながらなかなか裕福になれないのが日本の悲しい現状です。
では、海外の補助金申請はどのようにチェックされるのでしょうか?(申請書のフォーマットの違いを挙げているとキリが無いので、そこは割愛します)
生産効率が年々上がっているドイツでは、第三者機関に『ロボットのプロフェッショナル研究所』があり、そこが申請書を非常に厳しくチェックをします。厳しくチェックする理由は、採択された企業がロボット導入後に生産効率が上がらなかった場合、責任を問われるからです。
生産効率の報告方法も違う!
また、申請書のチェックの方法だけでなく、採択された企業が『どれだけ効率が上がったか』の報告の方法も全く違います。前述と同様に、第三者機関がロボットの導入前と後を厳しく比べます。全て自己申告、しかもそれを国が簡単に認めてしまうのは、日本だけです。
前述のロボットが埃を被っている企業の社長も「5年間の報告書は、いくらでも誤魔化せる」と言っていました。
海外SIerの効率を上げるノウハウ
余談ですが、海外と日本ではSIerの能力が全く違います。ドイツをはじめ海外のSIerは、『設備を組む』だけでなく『ロボットで優れた加工』『効率を上げる事』のノウハウをもっています。彼らが日本のSIerを見たら、「ロボットと周辺機器を電気的・機械的に繋げているだけ」に見えるでしょう。
訴えることもできない
さて、前述の悪徳SIerをこの企業は訴える事ができません。なぜなら補助金を受け取る側として、国から見たらこの企業はSIerと共犯者の為です。このSIerは、この事も計算にいれていたのかもしれません。もしそうであれば、かなり悪質です。このようなSIerが『SIer協会の幹事』とは、どういう基準で幹事になったのか私にはまったく理解ができません。
これを読まれた企業様は、決してSIerや大学教授を「有名だから」「元々付き合いがあるから」「近いから」などという理由で任せない事です。
プロフェッショナルの目が不可欠
日本のものづくりの生産効率を上げる為には、補助金を出す中小企業庁や経済産業省もドイツのようにプロフェッショナルの目を持つ(もしくは持った人に依頼する)事が絶対に不可欠です。短時間でロボットシステムの良し悪しを判断できる私の目がどこかでお役に立てれば有難い事です。
◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。