外からの力によってワークがどれだけ変形したかの目安となる「ひずみ」。自動車や航空機などの輸送機器、ビルや橋といった建築物の強度の検査等でひずみ量の計測が使われているが、これまでの計測装置は大型になりがちで、機器に組み込んでの常時計測には難しかった。
グローセルは、ひずみ検出と回路を1チップに集約し、モジュール化した半導体ひずみセンサーモジュール「STREAL(ストリアル)」を開発。機器や装置に組み込めるIoTセンサーとして注目を集めている。
ひずみ+リアルで新たな価値を創造
同製品は、1μεの高精度で物体のひずみを計測でき、小型で機器組み込みに適した半導体センサーモジュール。
もともと2003年に日立製作所の機械研究所で開発されたもので、12年に日立オートモーティブシステムズで自動車向けの車載部品として事業化。当時から半導体チップの開発と製造で連携していたグローセルが、17年に自動車以外の分野に向けた事業化をスタートし、現在も産業やインフラ、医療などへの展開を進めている。
製品名は、STRAIN(ひずみ)とREALをかけ合わせた造語で、微細な変化を「リアルタイム」に伝え、目には見えないモノの「リアル」を見える化し、人とモノ、モノとモノの新しい「リアル」をつないでいくというコンセプトとなっている。
これまでのひずみ計測の課題
ひずみ量を測る技術としては、抵抗式ひずみゲージ、ファイバセンサー(FBGセンサー)、ピエゾフィルム、静電容量型MEMSセンサー、共振型MEMSセンサー、SAWセンサー等がある。このうち最も多く使われているのが抵抗式ひずみゲージを利用したものである。
抵抗式ひずみゲージは、絶縁体上に長い金属箔線をレイアウトして樹脂でラミネートした抵抗体でワークに貼り付けて使う。ワークの伸び縮みに応じて変形し、その時の電気抵抗値の変化を算出してひずみ量とする。
ひずみゲージを使って計測する場合、ひずみゲージのほかにブリッジボックス、外付けアンプ等が必要となる。システムがかさばるため、これまでは据付で恒常的に使うのではなく、現場に持ち込んでデータを出力する「計測器」として使われることがほとんどだった。
それに対しストリアルは、2・5mm角の半導体チップにセンサー素子とA/Dコンバータ、アンプ等の周辺回路をすべて集約し、データ収集から出力までを1つにおさめて単体のモジュール化し、機器に組み込んでリアルタイムにデータを出力するセンサとして使うことができる。
小判形のセンサー部は長さ12mm✕幅5mm✕高さ約1mmで、これをワークに貼り付けてFPCの先にある端子をつなぐだけでひずみデータ収集が可能。消費電力も3mWと低消費で、ボタン電池1つで十分。精度も1kmの物体のわずか1mmの伸び縮みのひずみ量を計測できるほどの高精度を実現。半導体チップにひずみを受けても特性が変わらない独自レイアウトを施し、温度変化が抵抗値に影響を与える問題に対しても、ひずみと同時に温度も測定して補正をかけることによって正しいひずみ値が出るような工夫がなされている。
システムソリューション本部 システム開発2部 岡田亮二氏は「ひずみゲージは検査や実験、評価などその場で正確にデータを取る計測器。ストリアルはワークに取り付けたままにしてデータを収集し続けるセンサで、ひずみゲージでできなかったことをやるために開発したもの。IoTや制御に向けた製品で、ひずみゲージと共存して相乗効果でひずみ計測が広まって欲しい」と話す。
国内外で数々の賞を受賞
引張圧縮とせん断タイプの2種類を製品化
モジュールは、水平方向の変位量を検知する引張圧縮タイプと、ねじれ方向を検知するせん断タイプの2種類があり、機器に組み込んで使うのに適したサイズ・形となっている。プラスチックや木材、布のような大きく曲がるものには向かず、金属のような見た目ではひずまないようなものの微小な変位を測るのに適している。
同製品は各方面から高く評価され、16年の米・R&D Magazineの「R6D100Awards」をはじめ、18年には「日本ものづくり大賞内閣総理大臣賞」、19年には「半導体・オブ・ザ・イヤー優秀賞」を受賞。さらに20年3月には「日本機械学会賞(技術)」を受賞している。
問い合わせも多く、すでに複数社とPOCが進んでいる。特にトルク測定のニーズは高く、加工機やロボットなど機械メーカーで微小な力を検出して制御にフィードバックする用途や、インフラで構造物の変形を測り続けて状態変化を見る用途などで研究が進んでいるという。
今後について、すでに引張圧縮とせん断モジュールはサンプル販売を行っており、現在セラミックモジュールを開発中。20年度にはコンポーネント事業を立ち上げる予定で、トルクセンサの開発も進んでいる。さらに21年度には分解能を10分の1まで高めた新しいICチップを準備するなど、技術開発は着々と進行している。
システムソリューション本部 システム開発2部 宮嶋健太郎部長は「すでにサンプル販売をしているので、ぜひ色々と試して欲しい。デバイスの小売だけでなく、ひずみデータの分析や処理、どこに貼り付ければいいかなど、多くの企業をコラボをしてひずみ測定の有効性を深めていきたい」としている。