突然に世界を襲ったコロナ禍は、感染者・医療従事者を窮地に陥れたばかりでなく、危機的な大不況を誘発し、世界中の大惨事となった。一刻も早い終息を願うばかりである。
コロナ禍は、人々の心に深い「不安と恐怖」を植え付け、この後遺症が癒やされるのは容易ではないが、半面でテレワークやオンライン会議の実践など、第4次産業革命を意識させる大きな進歩があったことも事実である。
『災い転じて福となす』こんな観点から、コロナ禍の数カ月を顧みたい。
『川を上れ、海を渡れ』という言葉がある。連綿と続く時間の流れをさかのぼり、歴史を学ぶこと。そして、海を越えて世界から自分を見つめよう。という名言である。私自身も世界を渡り歩く長い人生の中で、常に心に持ち続けた言葉である。
しかし残念なことに、テレビ報道される「歴史や世界からの情報」が、日本中の人々を不安と恐怖に陥れた。感染症の歴史をさかのぼれば、天然痘やペスト・スペイン風邪など、パンデミックの歴史が続々と出てくるが、歴史専門家の解説を聞いて、感染症の恐怖が多くの人々の心に刻まれていった。海の向こうの報道では、パンデミックを起こした国が登場し、『ニューヨークの悲劇は、明日の東京の姿だ』などの声に、日本中に動揺が広がっていった。
歴史的悲劇や海外の悲劇がわれわれに迫っていると洗脳され、人々は不安になり動揺するが、冷静に考えれば、大昔の世界と現在では全く事情が違うし、欧米では、移民・難民・ホームレスなど極端な貧富の差がパンデミックの要因となっており、社会秩序のある日本では全く事情が違う事に気づくはずである。
歴史と海外からの情報が、『川を上れ、海を渡れ』の趣旨とは、真逆の結果を生んでしまったが、この数カ月間で洗脳された「不安と恐怖」を人々が持ち続けても、明るい未来はやってこない。
コロナ禍の数カ月を総括し、われわれが認識すべきことは『遺伝子の誇り』である。国家強制力ではなく、自粛要請に自主判断で従う日本人の遺伝子は、どこの国にもまねできない。コロナ禍を乗り越え、明るい未来を開くためには、「不安と恐怖」から自らを解き放し、実践された『日本人遺伝子』に誇りを持ち、未来に進む『希望と勇気』が重要である。
また、イノベーションの観点もコロナを乗り越えるための必須条件である。コロナ禍の数カ月を総括すると、オンラインの壮大な実証実験と普及が一気に進んだ事が明確である。『災い転じて福となす』第4次産業革命が本格的に幕を開けたのである。
第4次産業革命は、人類が歴史的に経験する4回目の産業革命である。19世紀の産業革命から始まり、第2次産業革命で『電気』が誕生。第3次産業革命で『コンピュータ』が誕生し、『インターネット』が誕生したイノベーションが現在の第4次産業革命である。
コロナ禍以前には、誰も積極的ではなかった「オンライン」が、たった数カ月で世界中に浸透したのは驚愕に値する。テレワークによって好むと好まざるとにかかわらず、「オンラインミーティング」が必須となり、「オンライン演奏会」や「オンライン飲み会」などが誕生した。テレワークやオンライン会議が、思ったより事業効率を上げていくことに驚いている経営者は多い。『やってみないと分からない』はまさにこの事である。
都会に事務所を持つ企業は、ほとんどの会社がテレワークを実施した。その結果、オンラインミーティングの威力と効果を初めて知った経営者は多く、私の友人で経営者の一人は、『アフターコロナ時代でも、オンラインミーティングは捨てられない。こんな便利で効率的なものだとは知らなかった』と語っている。
大手製造業の経営者は、かねてより立派なテレビ会議室での海外現地法人とのミーティングを自慢していたが、事務所閉鎖で活用できず、やむを得ずパソコン利用のインターネットオンラインシステムを活用し『こんな簡単にオンラインができるとは驚愕だ』と語っている。
コロナ禍で、オンライン活用の非対面コミュニケーションが一気に本格化したのは奇跡であり、もしコロナ禍に、インターネットがなかったら社会はどうなっていただろうか? コロナ禍が『第4次産業革命の本格普及の幕を開いた』と言ったら過言だろうか?
このオンライン革命が、中小製造業にも大きな影響を与える事は明白である。当社(アルファTKG)のお客さまは、地方の中小製造業が大半である。コロナ感染拡大の影響で、テレワークや工場閉鎖を実施したお客さまは皆無に近く、首都圏の企業から比べたら恵まれた状況であったが、オンラインの実証実験をする機会がなかったことが将来のマイナスになる危惧がある。
今回のコロナ禍の影響が少なく『われわれ製造業にはテレワークは無理だ!』と判じる経営者が多いが、東京に営業事務所を持ち、群馬県に工場を持っているA社の社長は、東京営業事務所のテレワークの経験から、群馬の工場に徹底的な非対面型オンラインミーティングシステムを導入設置し、膨大な経営効果を上げている。コロナを乗り越える経営戦略の実践である。
A社の群馬工場では、工場事務所と現場が、PCやタブレットを使っていつでも画面対話ができる仕組みを完成させた。東京営業事務所の閉鎖によってテレワークする営業マンとも、図面を見ながら会話するのも簡単であり、非常に大きな効果を上げている。最近ではCADを担当するベテラン担当者の通勤負担を軽減するために、テレワークも導入した。A社が挑戦するシステムは、感染危機を排除し、情報距離を縮める最新武器である。中小製造業において、工場内事務所と製造現場との情報距離を縮めることで、飛躍的な段取り削減による生産性向上が実現することをA社が教えてくれた。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。