新型コロナ、米中貿易摩擦…不確実な時代に突入
経済産業省は5月29日、日本の製造業のいまと将来見通しをまとめた報告書「ものづくり白書」の最新版を公開した。
新型コロナウイルス感染症の拡大、米中貿易摩擦、地政学リスクの高まりなど、先行きが見えず、不確実性が当たり前となっているなかでは、ものづくり企業は自ら変革する力(ダイナミック・ケイパビリティ)が重要になるとしている。
ものづくり白書は、経済産業省と文部科学省、厚生労働省の共同執筆による日本製造業の報告書で、今回で20回目の発行となる。これまでもインダストリー4.0やIoT、ロボット、AI、デジタルトランスフォーメーション(DX)などその時々のトレンドを、日本での状況、実際の現場での取り組み事例を交えて解説してきた。
20年版では、不確実性が高まる世界への対応力、競争力の源泉となるのは、製造業の「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」であるとした。それを身につけるにはデジタル化が有効で、デジタル化を通じて製造業の設計力を強化することが重要だとしている。
ダイナミック・ケイパビリティとは?
ダイナミック・ケイパビリティは、UCバークレー校ビジネススクールのJ・ティース教授が提唱した経営理論で、急速に変化する環境に対応するため、社内外にある技能を統合・構築・再構成する能力とされる。
それを実行するには「感知(センシング)」「捕捉(シージング)」「変容(トランスフォーミング)」の要素が必要とされ、脅威・機会を「感知」し、それを「捕捉」して資源を再構成して競争優位を獲得し、それを持続可能にするために組織全体を「変容」させるのだという。
製造業企業が具体的にそれらの能力をどう獲得して高めるかについては「デジタル化」を進めることが肝要だとしている。具体的に何をすればいいかというと、例えばデジタル技術を導入し、データの収集・連携、AIによる予測・予知、3D設計やシミュレーションによる製品開発の高速化、変種変量生産、柔軟な工程変更などを行うこととしている。
富士フイルムとダイキン工業成功例
その成功例として富士フイルムとダイキン工業の事例を紹介している。
前者はカメラメーカーで成長した同社が、時代の変化に応じて技術を生かして化粧品・医薬品などヘルスケア事業を立ち上げて主力事業にまで育てた例を、後者はグローバル空調メーカーである同社が、空調機器は地域によって大きく特性が変わることから「市場最寄化戦略」を実践し、生産ラインのベースとモジュールを日本が開発・生産し、各地域はその市場に合わせたラインを設計構築できる体制で柔軟な市場対応を可能にしている点を紹介している。
日本の製造業がやるべきこと
デジタル時代の製造業の競争力の源泉は、エンジニアリングチェーンの上流工程、特に設計工程に移っている。日本の製造業の強みは「現場力」に代表されるような生産や品質管理など製造工程とされてきたが、白書ではそれを生かしつつ上流をもっと強化すべきと示唆している。
そのためには3Dデータの活用が必須であるとし、3D設計と3Dデータを生産準備や製造、保守までエンジニアリングチェーン全体で使うことで生産性は向上できるとしている。
このほか白書では、実用化がはじまった5Gについて製造現場での利用促進や、デジタル化を推進する人材の確保と育成、その下地づくりとしての教育などについて言及している。