ITとOT(FA)ネットワークの融合に向けた協業開始
第1弾として工場内ネットワーク可視化ソリューション
製造業のオフィスと工場のネットワーク構築について、理想論で言えば、それらの環境整備と運用管理、保守は、社内のITや情報システム部門が一括して担当し、工場や製造部門はそれを活用して最適生産に注力するのが役割分担としてはベストだ。しかし現実はそうなっていないばかりか、完全に分かれていたりするのが実態だ。ITとOT(FA)の融合や連携が必須とされるなか、こうした状況が製造業のデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)、スマートファクトリーを妨げるハードルになっている。
それに対し、端子台をはじめ制御機器、産業ネットワーク専門のフエニックス・コンタクトと、スイッチなどITネットワーク機器のアラクサラネットワークスは、お互いの得意領域を持ち寄り、こうしたITとOTネットワーク間の課題解決に向けて協業を開始した。
ITとOTネットワークが直面している課題
製造業のデジタル化、DXでは大前提として、オフィスと工場のあらゆる機器とシステムがシームレスにつながることが求められる。そこに向けて今、大きな課題とされているのが「ITとOTの融合」。特に工場のネットワーク整備におけるITとOTのつなぎ目の部分に課題が山積している。
近年はITとOTの融合に焦点を合わせた製品やサービスが増え、技術的にもOTのフィールドネットワークにも産業用Ethernetが広がってきた。ITから OTのネットワークまで技術的にはつながりやすく、構築面のハードルは低くなっている。
しかし運用面では、IT側は情報システム部門が、 生産ラインや設備間のOTネットワークは工場の現場部門が行う二元管理が行われている。そのため管理の重複や抜け漏れが発生しやすく、ネットワーク全体管理と接続機器の把握も万全ではない。セキュリティ面でも高リスクを抱えている。トラブル時の調査や復旧の妨げにもなっている。
またITもOTともに人材不足が深刻化していて、少ない人数での効率的な運用体制が求められている。
技術面ではITとOTは連携しやすくなっている一方、運用や保守メンテでは旧態然のやり方が残り、ムダや非効率が発生しているのが実態だ。
ITとOTネットワークの専門家によるタッグ
そこにメスを入れようとしているのが、フエニックス・コンタクトとアラクサラネットワークスのタッグチーム。
フエニックス・コンタクトは、ドイツ本社で端子台やコネクタなど配線接続機器を祖業とし、近年はPLCや産業用コンピュータ、産業用ネットワーク機器なども手掛けている世界的な制御機器総合メーカーだ。
一方のアラクサラネットワークスは、2004年にNECと日立製作所の合弁で設立された日本のネットワーク機器メーカー。通信キャリアや法人向けにスイッチやルーターなどを製造販売し、最近はネットワークセキュリティも展開している。
ITとOTのネットワークと制御に強みを持つ両者が連携し、デジタル化やスマートファクトリー、DXのインフラ構築と運用保守を効率化する取り組みを開始している。
工場内ネットワーク機器の可視化で管理効率化
第一弾としてスタートしたのは「工場内のネットワーク機器の見える化」。
前述の通り、製造業の多くの企業で情報システム部門と工場の現場部門でネットワークの管理が分かれているため、工場内のどこにどんなネットワークがあり、そこにいくつの機器がどのようにつながっているかの全体像と詳細把握はほとんどできていない。そのため障害発生時の迅速な対応の妨げやネットワーク機器の資産管理が煩雑になっているケースが多々ある。また機器の把握のためにスイッチやルーターそれぞれにエージェントソフトを入れているケースでは、そのライセンスと運用管理の手間がかかり、大きなコスト負担となっている。
それに対して、アラクサラネットワークスのネットワーク管理ソフトウェア「AX-SC」と、フエニックス・コンタクトの産業用スイッチ「FL SWITCH 2000」を組み合わせることで工場内のネットワークと機器構成を可視化できるソリューションを開発。AX-SCをネットワークインフラに接続し、管理したいFL SWITCH 2000を登録すると、自動でネットワークとそこにつながっている機器の情報を収集。工場内に散らばって設置されているFL SWITCH 2000がどのスイッチやルーターに紐づいているかの接続関係、どの工程にあるかの位置関係を一覧表示できる。
またトポロジマップとして絵(イメージ)としても表示でき、ネットワーク構成がひと目で分かるようになっている。これによってネットワークと機器管理が効率的に行えるようになり、情報システム部門と工場の現場部門の情報共有にも効果的だ。
もともとデータセンターやオフィスITでは行われてきたネットワーク管理手法だが、工場や産業用ではハードウェアやネットワークが若干異なるため不可能だったことを、OTとITの両社が組むことによってそれを可能にした。
真のITとOTの融合に向けた第一歩 まずは自動車産業へ
このソリューションで見える化できるのは、汎用Ethernetでつながった機器のみ。つまりは制御コンピュータやサーバーと現場にあるFL SWITCH 2000、そこに接続されているPLCまで。 PLCから先は情報システム部門ではなく、工場の生産設備、生産ラインを預かる生産技術や製造、保守部門の担当領域。現時点ではフィールドバスや産業用Ethernetでつながっている製造装置やコントローラ、センサ等は対象外となっている。
しかしながらスマートファクトリーやデジタル化の根底にあるのは、ITとOTが融合したシームレスなネットワーク環境。将来的には連携または統合されていくと予想され、今後はいま以上に工場の現場部門と情報システム部門の連携が重要になる。今回の取り組みの延長線上でそうした対応も視野に入っている。
アラクサラネットワークス 経営戦略本部 事業戦略部 市場戦略G マネージャ 阪田 善彦氏は「いま使われている産業用Ethernetと汎用EthernetはともにEthernet技術がベースとなっているが、産業用EthernetにはIPスタックが乗っていないなど微妙に異なっている。また産業用Ethernetには規格が複数あり、現段階では産業用Ethernetまではカバーしていない。しかし最近はTSNを使ったCC Link IE TSNなどが出てきて、汎用Ethernetと産業用Ethernetの垣根がなくなってきている。そこに対する期待は大きい」と言う。
フエニックス・コンタクト IMA統括本部 本部長 横見 光氏も「将来的には汎用Ethernetと産業用Ethernetの互換性が高まり、制御機器もそこに対応していくだろう。レガシーな機器であってもデバイスサーバーなどを使って見えるようになり、すべてがつながり、見える世界を実現できると思う。そうなれば、例えば今はデータ活用をしていない保守・メンテ部門でも、ツールを使ってメンテナンス計画を立てたり、リモートで外から状態確認をするなども可能になるだろう」としている。
とは言え、今回の取り組みは、あくまでITとOTのシームレスなネットワーク環境の構築と運用管理に向けた第一歩目。ここからがスタートとなる。当面は業務効率化やデジタル変革に対して現場のモチベーションの高い自動車産業への提案を強化し、導入を目指すとしている。