新型コロナウイルスによる影響が長期化し、手元資金が潤沢だった上場企業の資金繰りにも変化が生じている。
6月8日までに新型コロナへの対応で、金融機関などからの資金調達を公表した上場企業は171社に達し、総額は9兆6,758億円に及ぶことがわかった。
1,000億円以上の資金調達は、トヨタ自動車の1兆2,500億円を筆頭に26社を数える。自動車メーカーや鉄鋼などの大手メーカー、航空会社など、国内各業界を代表する企業が並んだ。
調達金額別では、10億円以上100億円未満が81社(構成比47.3%)で最も多く、業種別では製造業がトップで、続いてサービス業と小売業など、個人消費関連の業種が目立つ。
5月25日、新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除された。ただ、影響は国内外の広範囲に及んでおり、今後も流動的な経済活動が見込まれる。また、政府が提言する「新しい生活様式」の実践で、従来のビジネスモデルや収益環境が大きく変わる可能性が高まっている。
こうした事態の長期化に加え、「ウィズコロナ」、「アフターコロナ」に備えた運転資金の確保を急ぎ、手元資金を厚くする動きが広がっている。
※上場企業が開示した「資金の借入のお知らせ」や決算短信、決算説明資料などで、「新型コロナウイルス」に対する対応策を理由とする資金調達の開示を集計。従って、資金調達とコミットメント枠設定の両方を含む。集計期間は6月8日まで
※対象は、金融機関からの借入、融資枠(コミットメントライン)や当座貸越契約の設定、CP(コマーシャル・ペーパー)、社債の発行による資金調達など。借入金額がレンジ表示の場合、最大の金額を集計した
トヨタ自動車など自動車メーカー6社が1,000億円以上の資金調達
「資金調達」を開示した上場企業は171社で、合計金額は9兆6,758億2,000万円だった。多額の調達額を開示した一部の企業が全体を押し上げた格好だが、1社あたり平均調達額は572億5,300万円、171社の中央値は50億円だった。
上場企業171社のうち、最大の金額はトヨタ自動車の1兆2,500億円。「新型コロナウイルスの影響長期化リスクを見据えた資金計画や市場動向を勘案」し、複数の国内金融機関から借入を実施し、返済期限は1年程度とした。
調達金額1,000億円以上は26社にのぼる。このうち完成車メーカーはトヨタ自動車をはじめ、日産自動車(調達金額7,125億円)、マツダ(同3,000億円)、本田技研工業(同2,000億円)、SUBARU(同1,915億円)、三菱自動車工業(同1,620億円)の6社が入った。世界的な市場縮小と減産を見据え、コミットメントラインなどを新たに設定し、資金需要に備えている。
また、キャッシュフローの悪化に備える鉄鋼関連、減便で収益悪化が深刻なANA、JALの航空大手2社、輸送人員の減少などが響く西日本旅客鉄道と九州旅客鉄道のJR系2社などが、1,000億円以上の大規模な資金調達を公表した。
資金調達額 10億円以上100億円未満が約5割
171社の資金調達の金額は、10億円以上100億円未満が81社(構成比47.3%)で、半数を占めた。
このレンジでは中堅規模の企業が多く、飲食業や小売業などの業種で、来店客の減少による短期的な資金需要に対応した調達が目立った。
次いで、100億円以上500億円未満が34社(同19.8%)、1,000億円以上が26社(同15.2%)、1億円以上10億円未満が21社(同12.2%)と続く。
製造業、サービス業、小売業の3業種で約8割
業種別では、製造業が51社(構成比29.8%)で最多。グローバル展開する大手企業が多く、世界的な景気悪化の直撃に備え、資金調達額の合計は6兆6,106億円と突出した。
次いで、サービス業の43社(構成比25.1%、資金調達額6,002億円)で、インバウンド消失や旅行自粛の影響を受けた宿泊・旅行業などが多い。次いで、小売業の38社(同22.2%、同3,147億円)が続く。緊急事態宣言に伴う営業自粛要請を受け、休業や営業自粛が続いた百貨店、飲食業などが含まれる。
上位3業種で全体の約8割(77.1%)を占めた。
借入期間が判明した129社のうち、期間が5年以上は23社にとどまり、比較的短い期間の借入が中心になっている。期初に想定した中長期的な資金計画でなく、新型コロナ感染拡大による事業環境の急激な悪化で、緊急対応の意味合いが強いことがわかる。
東京証券取引所では、資金借入に関する情報は「原則として、借入金額が前年度末の連結純資産額の30%を超える場合に開示を要請している」という。だが、コミットメントラインの設定等は対象外で、資金借入を重要な投資情報として開示するかは個別企業の判断に委ねられる。
「融資要請を行っているが、仮に融資が決定しても公表の予定はない」(自動車メーカー広報)とする企業もあり、水面下では金融機関への資金調達要請はさらに広がっている可能性もある。新型コロナの経済的影響は流動的で、先行きの見通しが定まらない。こうしたなか、企業が手元流動性を高め、不測の事態に備えて運転資金を確保する動きはさらに加速しそうだ。