中国工場における従業員の定着及び従業員教育の進め方②
同じ項目・内容を繰り返し教える
第2回の今回は、従業員教育の進め方についてです。
2.従業員教育の進め方
教育の重要性・必要性は誰しもが理解していますが、その流動性の高さから教育しても辞めていくので、「まるでざるで水をすくうようだ」と言っていた日本人駐在員がいました。まさに言い得て妙だと思います。
しかしながら、仕事をする上での基本的資質が高くない中国の作業者レベルの人には、たとえ辞める率が高くても教育を通して少しでも意識や知識を学んでもらわなくてはなりません。そうすることで、品質に対する知識や意識がある従業員の割合を少しでも高める。もちろん理想は従業員全員がそうなることですが、現実の問題としては、そうした従業員を1人でも2人でも増やすことを目指します。それが自社工場の品質レベルを上げることにつながります。
では「ざるで水をすくうような」従業員教育をどのように進めたらよいのでしょうか。
(1)中国人が中国人に教える仕組みを作る
従業員教育で目指すのは、日系工場であっても中国人が中国人に教える仕組みを作ることです。
教えることのできる中国人がいない場合は、まず教えることができる中国人を育成することが必要です。つまり初期段階においては、日本人が中国人を教育・育成して、先生役の中国人を作ることをしなければなりません。この先生役の中国人を育成するのは、工数も掛かるし簡単なことではありません。
もし、駐在員だけで対応できないのであれば、日本の本社に応援を頼むとか、外部の力を借りるなどをしてでも対応しなくてはなりません。これを避けていては、次のステップに進むことができないからです。
(2)教育する項目を決める
部門ごとや工程ごとに教育する項目を決めます。その中には、工場としての共通項目もあるでしょうし、部門や工程で必要な知識や項目があるはずですので、それをベースに教育する項目を決めます。
例えば、工場としての共通項目としては、
・品質管理の基礎知識
・自社製品がお客さんの工場ではどのように使われるのか
・自社製品が最終どのような形で世の中に出ていくのか
これは、前述した定着の話のところで述べていますが、自分たちが作っている製品がどのように世の中で役に立っているかを認識させるためです。
などがあります。
(3)その教育項目を繰り返し教育する
部門や工程ごとに決めた教育項目が仮に10項目あったとしたら、1番から順番に教育をしていきます。そして10番まで終わったら、また1番に戻って教育します。1〜10番までを繰り返し教育するのです。
教育というと、何か新しいこと、違うことを教えなくてはいけないと考えている人がいますが、決してそのような必要はなく、同じ項目・内容を繰り返し教えることで問題ありませんし、それが大事なことです。
その理由は、大きく2つあります。
・ひとつは、一度教えただけでは身に付かないからです。中国の作業者や検査員に一度教えただけで覚えてくれるなら、こんなに楽なことはありません。簡単に覚えてくれない、身に付かないから同じことを何度も教育するのです。
・もうひとつは、中国工場には常に新人がいるためです。新人にも同じように教育をして仕事に必要なことを身に付けてもらわなくてはなりません。繰り返し教育をしていれば、新人がどのタイミングで入ってきてもどの項目から始めるかの違いだけで問題なく対応できます。
3.メリット
この中国人が中国人に教える仕組みを作ることのメリットとして、次のようなことがあります。
(1)教育が日本人の手から離れる
通常の教育が日本人駐在員の手から離すことができます。これは駐在員にとっては大きなメリットです。駐在員は忙しいので、その分他の仕事ができます。
(2)教育が継続して行える
日本人駐在員が教育を担当していると、いつの間にか教育がなくなっていることが起きます。どういうことかと言うと、前述の通り駐在員は忙しく、さらに日本の本社から飛び込みで急な仕事が入ることも日常茶飯です。そうなると、「今日は教育の予定だったけど急な仕事が入ったので中止」ということが起きます。それが繰り返されていつの間にか教育自体をやらなくなる。このような事例をいくつも見ました。
これを中国人の仕事としていれば、中止になることなく必ず実施されます。
(3)教える人のレベルが上がる
みなさん経験があると思いますが、人に教えるというのは、実は教える本人が一番勉強になるのです。ですから、先生役の中国人自身の勉強になります。先生をやらせることは、先生役の中国人のレベルを上げることにつながります。
★オンライン「外観目視検査セミナー」開催
ライブ配信:2020年8月27日(木)13:00〜17:30
アーカイブ配信:2020年9月30日まで、お好きな時に受講可能!
「精度向上に向けた外観目視検査の上手な進め方と具体的実施手順」
〜外観品質を保証する・バラツキ低減・精度向上のための基礎講座〜
基準の設定、限度見本、検査員の能力を最大限に発揮させる検査環境、検査員の育成・教育、検査精度維持のための定期認定、海外工場で実施するときのポイントについて解説。
詳細は、KPIマネジメント(株)または下記URLから
http://www.prestoimprove.com/seminar20200827.html
◆根本 隆吉
KPIマネジメント代表・チーフコンサルタント。電機系メーカーにて技術部門、資材部門を経て香港・中国に駐在。現地においては、購入部材の品質管理責任者として購入部材仕入先品質指導および品質改善指導。延べ100社に及ぶ仕入先工場の品質改善指導に奔走。著書に「こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善〈虎の巻〉」(日刊工業新聞社)など。