トヨタ自動車(以下トヨタ)が、正社員向けの在宅勤務を拡充していくという報道があった。新型コロナウイルス感染防止のために暫定的に行っていた在宅勤務を制度化し、オフィスワークからはじめ、工場勤務の技能職へも広げていく考えとのこと。
緊急事態宣言が明け、徐々に経済活動が再開して、元に戻ったという企業もあれば、リモートワークを継続しつつ、出社はスケジュールを調整するようにしたところもある。この方針は多方面に影響を与えそうだ。
もう一つの注目ポイントが、技能職へもリモートワークを広げていきたいと考えていることだ。三現主義のもと、現場またはそこに近いところで働くのが常識であり、ましてやリアルな製品と現場、いわゆる現物を扱う以上、リモートワークは不可能、しないというのが当たり前だった。
しかし今回、トヨタはそこにメスを入れる。これまでもカイゼンを通じて現場を変え続けてきたが、もう一段ギアを上げて現場のあり方を大きく進化させようとしている。技能職に広げるということは、その業務もリモートワークができるという見通しがあるからこそ。生産設備の自動化やデジタル化対応はもちろんのこと、設計や検査、管理業務など新たなツールやシステムの需要が期待される。
そもそもなぜ今、それを行うのか? 世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)と自動車業界の変革の波への対応というのは当たり前で安直だが、本質はそこではない。これまでトヨタを支え、国内300万台の生産体制を維持してきたのは、作る技術と技能を習得した人材があってこそ。メーカーとして企業として今を生き残り、未来を作るためには、現場とその人材の雇用を守ることが最重要。彼らにとってものが作れなくなる状態になることこそが致命傷になる。
その芽をつぶすためのカイゼンの第一歩がリモートワークだ。これまでの伝統に由来する聖域やタブーを盲目的に守るのではなく、それをキチンと精査して、守るべきところは守る、変えるべきところは変える。「企業を守る」から「現場・人材を守る」へと目線を変えると見えてくる景色が変わる。変わった先にビジネスチャンスは転がっている。