機器部品営業は、市場の環境に応じて営業のやり方を変えてきた。これまで述べてきたように、黎明離陸期ではまだFA市場は未成熟であったから、市場を模索する市場探索型営業であった。
昭和の成長拡大期には、工場や現場の数が増え続けていたからその現場の隅々に、次々と発表された新商品を広めようとした商品PR型営業であった。平成では国内産業は成熟しデフレ停滞が長期間続いたため、部品機器は買い手市場から売り手市場となり大競走となった。そのため競合切り替え型営業であった。
いずれの時期においても、販売店が売り上げを伸ばすためにはその時期に合った営業のやり方が最適の営業型であったのだ。ただし、どのような営業のやり方であっても、新規の見込み客へのアプローチをして行く時には、売り込める状況を作ってから攻めて行かなければならない。もちろん新規の見込み客であっても売り込める状態になっているのであれば、初回のアプローチ時に商品を紹介して強力に商談を押し進めることはできる。
しかし、同一の市場にいる見込み客であっても詳細は知らないし、まして今後FA市場からにじみ出す新市場にいる人などは全くの赤の他人である。だから初回アプローチから売り込める状態にはなっていないと考えるのが自然である。
新規見込み客へのアプローチの基本動作はいきなり商品紹介から入るのではなく、商品紹介を快く受け入れてくれる状態を作ることなのだ。新規見込み客へのアプローチをマスターしておかないと、機器部品営業でも令和の時代には苦しい戦いを強いられることになるだろう。
前回まで述べたように、初段階でのアプローチではなんとか人間性を伝え、ビジネスマンとしても合格点はまだもらえなかったとしても、不合格にならなかったなら次の段階に進んでいける。しかしそれでもまだ売り込める状態は作れない。焦って売り込みに入ってはいけない。まだまだビジネス上の親しみを相手は感じてくれない。より接近するにはコミュニケーションをさらに進める必要がある。
販売員と見込み客の間では、コミュニケーションの主導権は見込み客が持つ。普段の営業では名刺交換して着席した後、忙しいですか、どんな仕事をされていますかなどの問いかけに対して素っ気ない返事で返されると、すぐに取扱商品のアピールに移っていた。このことは何を意味するかと言えば、営業上の主役が販売員ではなく、商品になってしまったということなのだ。
そこで基本に戻して、主役は販売員だと自覚する。そしてより接近していくには、その主役の座を見込み客に明け渡し、その代わり見込み客が持っている主導権を販売員が奪わねばならない。
そのやり方とは、見込み客に心から尊敬の念や感謝の念を持って接近する。そして見込み客が話しやすい気分になってもらうような話題の準備をする。その準備に沿って、販売員はコミュニケーションの主導権を行使するということだ。また、親しみを込めて接近するセカンドステージである。
だから今どんな仕事をされているのかという軽いノリで話しかけるのではない。相手は主役なのだ。主役に関わる話題は相手の会社、所属グループ、仕事の内容に言及し主導権を取って、コミュニケーションが続けられるような話題である。だから十分な準備が必要なのだ。
新規見込み客へのアプローチに関する基本動作の中に「訪問準備で勝負は決まる」というフレーズがある。平成でやっていた準備とは持参する商品の中で何か良いものはないかと探して準備することだけだった。本当の準備は、コミュニケーションに相手を引っ張り込む話題の方が重要なのだ。