コロナ禍の最中に、国際社会では米中による衝突が勃発しており、デカップリング(切り離し)というキーワードが頻繁に使われるようになった。米国による中国敵視と攻撃は日増しに本気度を増しており、共産主義国家である中国を敵国とみなし、米国の党派を超えた国家総意として数々の中国強行策を繰り出している。比較的中国に友好的であった米国の歴史的な方針変換と言って過言ではない。
中国からのデカップリングは、米国から民主主義の各国に連鎖しており、インドなどを筆頭に中国包囲網が形成され、中国は四面楚歌の状況に置かれている。日本のメディアではこれらの状況は報道もされず、政財界でも依然として経済的な中国依存への期待感も強く、デカップリングを本気で考え対応する姿勢は乏しい。しかし、近い将来、さまざまな外圧により、日本企業がデカップリングを強制させられるのは避けられない。デカップリングの行き着く先は、米国や日本を筆頭に民主主義各国が、共産党一党独裁中国と決別することであり、グローバル経済は終焉し、各国が国内製造拠点の強化に血眼を上げる時代の到来である。
大手製造業はじめ多くの日本企業が築き上げた中国製造拠点は、好むと好まざるとにかかわらず、撤退を余儀なくされ、将来的に消滅するだろう。チャイナ・ドリームも消滅し、チャイナ・ショックが本格的に始まる事は予言ではなく、顕在化した事実である。この影響が、日本経済を直撃するのは明白であるが、日本の不感症は由々しき事態である。
今回の【コロナ禍が教える日本ものづくり課題】(その3)では、風雲急を告げる『チャイナ・ショック』と、終息しない『コロナ禍』を、中小製造業の課題として取り上げる。最初の課題は、地獄の釜の蓋も開いた『日本経済の惨状』についてである。ご周知の通り、日本の経済は戦後最大の危機に直面し、満身創痍の状況である。この惨状を、新型コロナウイルスを犯人に仕立てているが、犯人はそればかりではない。消費税増税、働き方改革や外国人労働者依存など、政治的要因や国際情勢が絡み合った結果であり、『コロナが終息すれば全てが解決する』といった単純な問題ではない。
8月17日に内閣府が発表した、今年4〜6月のGDP速報値は、年率換算で27.8%減という想像を絶する戦後最大のマイナス成長となった。このまま行くと企業倒産や縮小企業が続出し、雇用危機の発生も余儀なくされ、万が一にも株暴落や金融危機が起きたら、国家が重大な危機に直面する非常事態になるが、不思議と世間が大騒ぎする様子もなく、全ての原因が『新型コロナ』で片付けられている。
テレビでのトップニュースは依然として新型コロナ関連であり、各テレビ局が競って無症状者も含めた『陽性者数』を速報し、コロナ危機を煽るので、テレビウイルス感染者が蔓延している。死亡者も圧倒的に少ない弱毒ウイルスへの過剰反応報道に、疑問を感じている御仁も多いと思われるが、新型コロナ軽視は現社会では認められない。自らが『新型コロナを恐れない言動と行動』などと発すれば、即座に社会的制裁を受けるので、自粛や3蜜回避、マスク着用など、感染拡大防止という『社会的モラル』を皆が守っている。
大企業も、テレワークや対面活動禁止などの新型コロナ対策に先導して取り組んでおり、世間からも称賛されているが、実のところこの方針により、経済活動は大きく弱体化し、労働生産性の低下やうつ病患者の増加は、あまり指摘されていない。特にテレワークや在宅勤務は、戦後築き上げた日本のものづくり文化を崩壊させるばかりでなく、潜在的な組織に内在する課題や問題点を棚上げし、全ての悪しき結果を『新型コロナ』とすることで、全てに目をつぶる風潮が生まれている。
日本の労働生産性は残念ながら、以前から先進国最下位であり、働き方改革や外国人労働者への依存も良い結果を生んではいない。これに、コロナ禍による大手製造業のテレワークや在宅勤務が拍車をかけ、労働生産性はさらに悪化し、韓国より劣る結果が予想される。
前述の通り、中小製造業を取り巻く外部環境の脅威は、『デカップリングによる国際社会の大変化』と『新型コロナウイルスへの過剰反応』の2点に集約される。これだけ見ると、中小製造業には暗い未来が想像されるが、実はその半面で大きなチャンス(機会)も生まれている。デカップリングは、中国からの製造回帰(リショアリング)をもたらし、中小製造業にとっては、受注増加の福音である。また、新型コロナウイルス感染症防止への対応は、誰も反対できない社会的大義であり、従業員全員の合意と参加を伴うイノベーション遂行の絶好のチャンスである。特にデジタル化へのイノベーションは、古参熟練工が抵抗勢力となり、実現できなかった企業も多いが、今これを実現するチャンスが生まれている。
デジタルイノベーションと感染症対策は非常に調和が良い。その理由は、労働災害防止『5S』の延長線上に、感染症拡大防止の『デジタル5S』があるからだ。この具体的な解説は次回に行う。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。