製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (45)

生産性向上に必要なベーススキルとして何を教育したらいいのかわからない

活字ベースにし「伝える力」向上を

 

「若手技術者に生産性向上に必要なベーススキルとして何を教育したらいいのかわからない」という時には、「活字をベースとしたコミュニケーション力の向上」ということを最初に教育してください。

 

技術者に求められる生産性向上とは

今、働き方改革の一環で注目されるキーワードといえる「生産性向上」。栃木県庁の依頼で始まっている技術者教育事業において、「今、会社から期待されていることは何と考えるか」という質問に対し、さまざまな業界の技術者の方々が、「業務における生産性向上を求められている」と回答しています。

その中身で多いのが、「生産ラインでの不具合の低減と安定生産、ならびに単位時間当たりの製品製造効率向上」というものでした。製造業ではどちらも不可避であると同時に妥当であるといえます。

そしてこれらを実際に実現するためにどのようなことを考えているか、取り組んでいるのか、という質問で最も多かったのが、「自動化技術による品質安定化と生産効率向上」でした。こちらも非常に重要です。人間はミスをするという前提である以上、ある程度決まった工程であれば自動化による安定と生産効率向上は理にかなった考えです。

しかしながらここで忘れてはいけないことがあります。技術者にとっての生産性向上で考えるべきことは、まず多くの方が考えるかもしれないのは、自動化技術を積極的に導入するには設備投資をできる資金力が必要ということです。

そして技術的な観点からさらに言うと本当に重要なのはここではありません。技術的観点から最も重要なのは、「どのような自動化技術を導入すべきかという技術要件をきちんと設備サプライヤに伝達できる」という全体を俯瞰してみる技術力です。

導入時点で、製造ラインであればその全体を理解していないと、「どの部分を自動化するべきか」「自動化するにあたってはどのような要件を設備側に課すべきか」「もし、故障やエラーが起こった場合、どのようにそれを検知し、復旧を早めるか」といったことを設備導入する側の技術者が、設備を設計する側に指示できません。

 

技術コミュニケーション力のベーススキルとは

上記のように技術をわかりやすく伝える力はいわゆる技術コミュニケーション力によって養われますが、技術者の場合、その力は「文章作成力」によって発揮されます。

技術者は専門性至上主義を有するため専門性へのこだわりが強く、自分の言いたいこと、得意な事から話したがるという傾向があります。本コラムをご覧の方の周りにも上記のような技術者がいらっしゃるのではないでしょうか。上記のような技術者の癖故、「いろいろ言いたい中でその内容を整理した上で、第三者に伝える」というコミュニケーションが不得意なケースが多いのです。

当然ながら技術系、いわゆる理系教育において専門性を高め、それを実験や試験を通じて理解するということは重要であることに疑いの余地はありません。その一方で、活字を用いて「伝える」という力についてそれを教育される時間が少ないことに加え、何より技術者や技術者の卵である学生向けに教育できる人材もいないため、「入社してきた若手技術者と話がかみ合わない」「入社した若手技術者も言いたいことが伝えられない」というケースが多く生じるのだと思います。

 

技術コミュニケーション力を活用した生産性向上への取り組み

上記でご紹介した自動化技術導入による生産性向上への取り組みにおいては、設備仕様を落とし込むということが極めて大切です。そのためには、「自動化によって達成したい事は何か」「上記を達成するためにはどのような技術要件(設計要件)が必要か」「上記要件を図面としてまとめる(まとめさせる)ために何をすればいいか」ということを明確化できなくてはいけません。

上記は自らの頭の中にあることに加え、生産ライン全体での課題内容の把握のためのヒアリング、そして何よりそれを第三者(設備メーカー等)にわかりやすく伝える、という技術コミュニケーション力が必須となります。

そして技術者がこのような力を発揮するには、自分の言いたいことから順不同で発信していくのではなく、「順序立てて相手を自らの言いたいことを理解してもらうために誘導する」という、自分自身を律する論理的思考力が極めて重要です。

この力の基礎となるのは、わかりやすく伝えないと破綻する「文章作成力」です。さらに技術者がこの力を養うためには「技術報告書を大量に書き、添削してもらう」という地道な育成が不可欠です。書く側の負担に加え、添削する側の負担も大きい。このことが文章作成力育成の機会喪失を促進してしまっている側面があります。

 

ベーススキルである文章作成力の盲点

加えて重要なのが「この文章作成力の向上効率は年齢と反比例する」という事実です。これは間違いのない事実です。よって、若いうちに技術者がこの鍛錬から逃げてしまうと、自動化、途上国技術者の成長と浸透、技術革新スピード等についていけず、最後は鍛錬から逃げた技術者本人が苦労することになります。

どのような時代にあっても技術者の文章作成力に裏付けられたコミュニケーション力は不可欠です。情報があふれ、開発期間の短縮やグローバル競争など、このような要因が多く複雑な時代ほど、情報を整理し、それを外に伝えることで、「技術者が自分の技術を実用的な武器として取り扱い、また他の技術を有する技術者たちを先導する」という本来の技術者の役割を全うすることこそが、最後に狙いたい生産性向上の本質です。技術者育成のご参考になれば幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。

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