総務省は2020年版「情報通信白書」をまとめ、そのなかで5Gの産業利用について言及している。製造業における5Gの現状と期待とは。
4Gまでの移動通信システムの進化は情報通信産業を一大産業にまで押し上げて「ワイヤレスの産業化」を実現した。続く超高速・超低遅延・多数同時接続という特長を持つ5Gでは、移動通信システムが今度は製造業をはじめとする各産業や分野に広く実装され、デジタルトランスフォーメーションを支える基盤となる「産業のワイヤレス化」を実現する上で、不可欠なものになる。
産業界における5Gへの認識は、総務省「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究」(20年)によると、関心がある企業は60%を上回り、全業種で50%を超えている。とりわけ製造業は高く、関心があって取り組みを開始している企業が32%、開始はこれからだが関心がある企業が42%に上っている。ただし大企業と中小企業の関心度の高さには差があり、中小企業では関心がある企業が半分程度にとどまっている。
関心が高い順は、超高速→超低遅延→多数同時接続。5Gの活用シーンについては、製造業では屋内の生産・製造現場が58%と最も高く、屋外が39%、物流が23%、保守・メンテナンスが26%と他の産業に比べて高い数値を示した。一方でサービス開発が他の産業よりも下回った。
実際に5Gによって製造業とその現場はどう変わるのか? 製造業は労働力不足と労働生産性の向上という課題があり、現在はIoTやAIを使った設備や人の稼働監視や見える化を通じた生産性向上への取り組みが進んでいる。5Gではその取り組みがより高度化し、進化していく。
例えば見える化では、カメラ映像を使ったモニタリングが進み、IoTで収集する数値データに映像情報が加わることでより詳細なデータ活用が可能になる。4Kや8Kの高精細映像でのモニタリング力向上、超低遅延でフィードバック精度の向上なども期待される。
人の作業支援では、PCやタブレット、VR/AR技術等を活用して、5Gを介した作業支援を行い生産性の向上が図れる。具体的にはARゴーグルを使いながら補完情報を用いて作業を円滑に行ったり、遠隔での指導やコミュニケーション等にも応用したりすることができる。
設備の自動化においても、FAやPA技術に5Gを加えてワイヤレス化することで生産ラインからの大量のデータ収集や、生産設備のリアルタイムでの遠隔制御など高度化を実現できる。Wi-Fiのような従来の無線技術では精度や遅延等で使えなかったところにも5Gを使い、FA・PAの進化が可能になる。
5Gで工場のワイヤレス化がレベルアップすることによって、多くの設備を映像でリアルタイムモニタリングしてメンテナンス性が向上し、設備の設置と配置の自由度が増してスペースを有効利用できるようになる。また熟練工の知見・ノウハウの情報収集と蓄積、そのフィードバックが従来よりも容易になり、技術承継の問題解決も期待されている。