パソコン需要増も追い風
サーボモータの市場は、国内外の景気低迷に加え、2020年に入ってからは新型コロナウイルス感染問題も加わり、需要停滞状況が続いていたが、2020年に春ごろからは半導体製造装置市場の動きが活発化してきたこともあり、最悪期は脱して上昇への動きを強めている。
まだ、自動車などの生産が回復途上であることから、主要市場である工作機械は大幅な前年割れの状況が続いている。
技術的には高分解による高速・高精度制御や高トルク化、調整作業の簡素化、省配線化、安全対策などを中心に取り組まれ、さらにネットワーク化への対応も注目されている。
小型ながら高精度、高トルク
日本電機工業会(JEMA)がまとめている生産統計によると、サーボモータの19年度(19年4月〜20年3月)の生産額は819億円(前年度比71.4%)、サーボアンプは1105億円(同78.6%)で、合わせて1924億円になっている。
中国市場でのスマホ市場の減速、米中の貿易摩擦の激化などを大きな要因に、その影響がアジアから欧米まで全世界に波及し、30%近い大きな落ち込みとなった。中でも、工作機械、ロボット、半導体製造装置の主要3分野が停滞した影響が大きい。
JEMAでは20年度は再び上昇に転じるとして、サーボモータが907億円(同110.7%)、サーボアンプが1222億円(同110.7%)で、合わせて2129億円を予測している。
しかし、予測した時点では新型コロナ問題の影響は加味していない。20年度第1四半期(4月〜6月)の産業用汎用電気機器用途に限定したサーボモータ・アンプの出荷実績は約352億円で、前年同期比93.8%となっている。
約3割減少した19年度の実績をまだ上回っておらず、低迷した状況が継続している。米中の貿易摩擦問題や新型コロナウイルス感染問題の影響が尾を引いていると見られる。
こうした中で、スマホや5G関連、ゲーム機器市場が牽引役になって半導体製造装置関連市場の回復が顕著になってきた。コロナ禍によるテレワークの増加に伴うパソコン需要の増加も追い風になっている。IoTを支える5G関連の市場は通信情報機器需要だけではなく、建設なども含めた幅広い分野に波及するだけに、今後の期待も大きい。
また、昨年は前年割れとなったロボット向けも、各方面での自動化投資意欲から再び回復基調に転じており、今後増加が見込まれる。
ロボットはサーボモータとセンサで構成されているとも言えるほどサーボモータの大きな市場で、ロボットの伸長率とサーボモータの伸長率はほぼ比例する。ロボットがサーボモータの市場拡大の牽引役として果たす役割は大きい。
ロボットは人手不足に加え、自動機やロボットでしか作れないものも増えており、自動化投資が進んでいる。用途も工場での作業用や物流分野、非製造業でもホテルでの案内サービスや外食産業の人手補完用、警備や清掃などといった幅広い用途で採用が進みつつある。コロナ禍での感染リスクを避けるための需要も出始めている。
サーボモータ各社は、使いやすさに重点を置いた製品開発を進めている。複雑な制御調整が簡単にできるオートチューニング機能、機械の振動を抑えながら短時間で位置決めを行う制振制御技術、作業の安全を確保するセーフティ制御技術、さらに効率的な生産を進めるネットワーク化対応などが開発のポイントとなっている。
オートチューニングでは、ワンタッチで機械の共振制御などにも対応できるよう、各社が独自の機能を搭載している。制御技術ではアーム先端の振動に加え、装置本体の残留振動も抑制できる低周波抑制アルゴリズムを搭載し、さらなる高精度調整を可能にしている。
高速化では、速度周波数応答3.5kHz、26ビットロータリーエンコーダの標準搭載で、6700万パルス/revを超える高分解能製品もラインアップされ、位置決め整定時間を大幅に短縮し、高精度な位置決めや微細加工を可能にしている。整定時間を短縮することは、業務の効率化につながり、機械・システムの生産性が向上する。
また、サーボモータの制御に関しては、指令応答特性を高めるフィードフォワード機能(FF機能)と、外乱抑制特性を高めるフィードバック制御(FB制御)があるが、FF制御とFB制御を完全に分離して制御を行うことができる、2自由度制御方式を搭載したサーボモータも使われている。
両制御を完全に分離することで、より高速・高精度なモータ制御が実現する。例えば電子部品実装機では、部品搭載ヘッドの振動を抑えた高速実装タクトの実現や、金属加工機では、摩擦や粘性の影響を少なくし、切断面を滑らかにするといった高精度な加工が実現できる。
さらに、1台のアンプで最大3台(3軸)のサーボモータができる機種も評価が高まっている。
注目されるDDモータ
最近注目されているのは、アンプの診断機能を使ったサーボモータの予知診断機能である。サーボモータの稼働時間などを計測して、故障などを予知することで稼働停止などに伴うトラブルを未然に防止することにつながる。
そのほか、小型化の一環として動力と信号をひとつのコネクタで接続できるようにすることで、コネクタのスペースを削減し、コンパクト化を実現している。
小型・軽量化では、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するダイレクトドライブ(DD)モータも注目されている。
DDモータは、減速機、ベルトなどの中間機構を介さずにモータと機械を直接接合し、動力・動作を伝えることができることから、薄型・コンパクト化でシンプル構造が可能になる。減速機などを使用しないことで特に低速での駆動が安定していることや、減速機の歯車から発生する微振動や音も無くなり、静かで周囲環境にも優しい。
当然のことながら、減速機などのメカ機構がないことで摩耗や歯車のかみ合わせずれによる位置精度誤差や故障の発生といったトラブルの要因も減らせることになり、メンテナンス作業の軽減、低コスト化や省資源というメリットにもつながる。
最近注目の2軸一体型DDモータでは、モータ中央部に2つの独立した回転軸を持たせることで別々の動作を同時に行うことが可能になり、ロボットハンドリングなどに有効だ。2軸のアンプを使用すれば制御盤のコンパクト化も図れる。
サーボモータとサーボアンプを一体化したアンプ内蔵サーボモータも、省配線や制御盤の小型化につながるとして注目されている。
リニアサーボモータの動向も注目されている。回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べ、推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなどに強みを発揮できる。特に、小型で速い動きが求められている機械などに最適である。
リニアサーボモータでは、高ショット往復運転のリニアアクチュエータが半導体テストハンドラ装置などによく使用されているが、新たにZ軸制御できるようにした開発も進んでいる。
ネットワーク化対応も進展
今後のサーボモータの利用領域を拡大するうえでコントローラとサーボアンプ間のネットワーク化も重要になっている。IoT、AI、見える化などが求められるなかで、ネットワーク接続の重要性は増しているからだ。
イーサネット技術をベースにした通信が主流で、通信速度1Gbpsを実現した機種も増えてきた。特にこのところ注目されているのが、イーサネットを拡張し、産業用ネットワークとIT用ネットワークをシームレスに統合するTSN技術である。すでにCC-Link IE TSNに対応したサーボモータが販売開始されている。MECHATROLINKをはじめ、他のネットワークでもTSNへの対応を始めており、近々ネットワークの主流となってくるという見方も強まっている。
さらに、サーボモータとつながるエンコーダとの通信方式もサーボモータ各社で異なった規格を使用している。通信方式はリニアエンコーダでは公開しているが、ロータリーエンコーダでは原則非公開となっている。前述のTSNの動向とも絡みエンコーダのネットワーク化の動向も注目される。
セーフティへの対応も進んでいる。サーボモータに関連する規格として、ISO13849-1、IE C61508シリーズ、IEC62061、IEC60204-1、IEC61800-5-2などがあるが、このうちIEC60204-1は、機械の電気装置に関する要求事項を定めた規格で、停止の制御機能について定義されている。
可変速ドライブシステムの機能安全規格であるIEC61800-5-2への対応も行われている。安全規格への対応は特に、自動車製造関連の用途で求められることが多く、サーボモータ各社のほとんどが対応を行っている。
このほか、厳しい環境下でも使用できるよう保護構造IP65などを標準採用したタイプや、IP67対応品も増えている。
低剛性への対応もポイントで、特に高速応答の必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。
搬送機械、繊維機械などでは、1台のマシンに使用するモータ数が多く、特にサーボアンプの小型化や各軸のゲインチューニング工数の短縮が求められる。このため、回路基板をワンボード化するなど、高密度実装と最適放熱設計での超小型サーボアンプもある。
JEMAでは、20年3月にサーボのユーザーアンケート調査をまとめている。これによるとサーボモータ・サーボアンプの選定条件として最も重視しているのは「機能・性能」が圧倒的多数を占めた。そのほかは「実績」「メーカー(ブランド)」となっている。
また、満足度では、「信頼性」「機能・性能」の2要素が約40%を占め、続いて「コントローラ親和性」「ネットワーク接続性」の順。一方、不満足度は「サービス」「省エネ」などであるが、いずれも10%以下となっている。
さらに、期待する機能として、「モータの小型・軽量」が最も多く、続いて「バッテリレス」「アンプの小型・軽量」となっている。
IoTと連携したものづくりが志向される中で、装置・システムでのサーボモータの果たす役割はますます高まっている。生産性向上、機械の予知保全、省エネルギー化などのニーズに応えた開発がこれからも続きそうだ。