製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (46)

自分で考えることが苦手な若手技術者にどのような仕事を任せればいいかわからない

規格ベースに規則通り仕事をさせる

「自分で考えることが苦手な若手技術者にどのような仕事を任せればいいかわからない」という時には、「規格を基本とした、決められたことを正確にやる仕事を徹底させる」ということをご検討ください。

 

技術者育成の最重要観点

技術者の育成の最重要観点は、「自ら課題を見つけ、それを解決する実行力を身に付けさせること」です。当社の技術者育成においても、当然ながらここを最重要視し、文章作成力、企画力、プレゼンテーション力という、技術者のベーススキルを実務を通じて養うことを行っています。

しかしながら、年代を問わず「自ら考えることが苦手という技術者」も少なからずいます。このような技術者に対しては、「強制的に上層の技術者とコミュニケーションをとり、やったことを活字媒体でまとめる」ということを徹底します。

 

技術者育成の課題と必要な育成方針転換

上記のような技術者育成アプローチによりベーススキルが高まり、自ら考えるようになる技術者もいますが、どれだけ時間と労力をかけても、「自ら考えて課題を見つけ、それを解決する」ということができるようにならない技術者がいることも事実です。育成される側も真面目に取り組み、育成する側も熱心に取り組んでも乗り越えられない壁のようなものがあるのです。

このような技術者に対しては、育成方針を大きく変更するという見極めが、技術者育成で重要になります。育成する側にも負担がかかることに加え、育成される側も業務が停滞し、場合によっては心身への支障という弊害がでるためです。

この変更の方向性でよく話を聞くケースとして、「自分で考えられない技術者に対しては、単純作業をさせればいい」というものがあります。これだけを聞くと単純作業というものを難易度が低い簡単な作業と思われるかもしれませんが、「自分で考えることが苦手な技術者が同じことを繰り返す場合、ミスが出やすい」ということが盲点となっています。

 

同じことを繰り返すというのは、忍耐力が必要である上、何かの異常があった時にそれを見つけ出す洞察力も必要です。上記で紹介したような、「自ら考えるということが苦手」な技術者は、集中力に欠けるケースがあるため、非常にミスが多くなる傾向があります。

加えてこれは、なぜだかわかりませんが、「問題が起こった際にそれを隠ぺいする」という傾向が上記のような技術者にあることから、問題が肥大化するケースも後を絶ちません。

また、育成とは別の観点で、「新しいものを生み出すという期待をして採用した技術者がその給与に見合う仕事ができていない」という事実に経営者が疑問を感じてしまうことはもちろん、現場の技術者や従業員にこれが波及し、モチベーション低下という負の連鎖を引き起こしかねません(従業員の立場や年齢によっては自分より高い給与をもらっている人が、きちんと仕事をしていないように見えるため)。

 

考えることが苦手な技術者の育成方針

ではどのように対応すればいいのでしょうか。まずは、技術者を育成するため強制的なコミュニケーションと、活字化による情報伝達を徹底させるという前提がありますが、どうしても育成成果が出ないという場合は、「規格を基本とした、決められたことを正確にやる仕事を徹底させる」という方向性が一案です。

「回答となる規格が存在する」というのがポイントとなります。すべてのケースに当てはまるかはわかりませんが、自ら考えることが苦手な技術者は学歴という観点では高い傾向にあります。つまり、模範解答があればそれを軸に考えるということができるようになる傾向にあります。

ここでいう規格として代表的なものは、「試験規格」です。JIS、ISO、EN、ASTM等がその代表例です。ここには、「どのようなことに留意すべきか」「どのような手順で行うべきか」「どのようなことをアウトプットとしてまとめるべきか」ということがきちんと書かれています。すべてではありませんが、「日本の規格であるJISやアメリカの規格であるASTMは内容が細かく記載されている傾向にある」ということを知っておいていいかもしれません。よって同じ内容のものであれば、これらの規格を優先的に採用することが望ましいと考えます。

 

一例として材料試験(試験片ベースのもの)について考えてみます。まず材料試験規格を徹底的に理解してもらい、場合によっては技術者自身にその規格の内容を自分用の手順書として落とし込んでもらいます。育成する側としては、「技術者が規格をきちんと理解しているか、そして手順書を作成した場合、その内容が妥当か」ということをよく確認してあげてください。

その後は、規格に基づいた材料試験を行ってもらうわけですが、ポイントとしては、「材料試験規格の中で重要と思われるデータを強制的に(可能であれば自動で)記録する」というセーフティーネットを張っておくことが重要です。

上述の通り、考えることが苦手な技術者はミスが多い。それ故、出てきたデータが信頼に値するものなのかを、後から検証できることが重要となります。そのため途中経過のデータや、ポイントとなる途中工程や結果を画像、動画といった形式で残しておき、結果に違和感のあったものについてデータを検証できる、という体制を整えておくことが一案です。

上記の業務を後検証できるという前提でルーチンにできれば、もともと勉学が得意であった技術者を戦力とすることができ、結果として企業活動への貢献をさせることができるようになります。育成を行っても自ら考えるということが苦手な技術者の育成方針の一助にしていただければ幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。

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