女性の長電話などといって揶揄された時代があった。昨今では一概に、男性は寡黙であり、女性はおしゃべりであるとはいえない。それでも女性の方が男性よりおしゃべり上手であるといえるだろう。
男性は主張の強い人が中心となっておしゃべりの会話をリードする傾向がある。女性の場合はおしゃべりが長くなる傾向がある。なぜ長くなるのかといえば会話中にお互いの興味ありそうな話題を見つけて次々に変えていくからである。
話題は一方に偏らず、お互いの話題に興ずるから飽きないし、楽しくコミュニケーションをしているのだ。自分の方から投げたボールを相手が返してよこすだけでなく、相手のボールを自分の方に向けて投げさせるコツも知っているのが女性のおしゃべりなのである。
コミュニケーションは、相手にどのように理解されているかで成り立つという原則がある。おしゃべりが楽しくて飽きずに続けられる女性同士は、お互いの境遇や性質をおおよそ理解している。まさに女性たちのおしゃべりはコミュニケーションの原則を地で行っていることになる。
そこで機器部品の販売員は、顧客からどのように理解されているのか、若手の販売員に聞いてみた。「日頃会っている顧客に、自分たちはどのように見られているかなどとは考えたことはないので分からない」という答えであった。販売員が普段会っている顧客を訪問する時、どんな会話をしているのか。それをチェックすれば販売員をどう思っているかが分かる。
一般的な会話の内容は ①依頼のあった用件の回答 ②案件の打ち合わせ、または進み具合 ③次のテーマ情報 ④商品のアピールなどである。
少し親しい関係になっていれば、取りとめのない個人的雑談が入る。このような会話から推察すれば、顧客は販売員を、注文が欲しい人としてしか理解していないことになる。販売員は顧客を、注文を出してくれる人としてしか理解していないことになる。
販売員と顧客は商売上の関係であるから、商品が接点になって会話が進むのは当たり前のことに思われる。だから今さら顧客にどのように見られているかという質問が唐突に聞こえたのだろう。
しかし営業が人と絡む仕事であるからにはコミュニケーションは欠かせない。女性たちがするような、飽きずに長々とするコミュニケーションができれば、営業の成果に発展するかもしれない。
コミュニケーションが成立するには、相手に自分はどう理解されているか、相手を自分はどう理解しているかにかかっている。それがコミュニケーションの原則なのだ。販売員は注文を欲しがる人で、顧客はその注文を出す人との理解だけでは、コミュニケーションが限定的になるのは当然だ。確かに互いの究極の理解は買い手と売り手だ。
しかし受注に至るプロセスには顧客との絡みを通してさまざまな話題が発生するはずである。したがって販売員は注文を欲しがる人という理解だけでなく、顧客にもっと理解の領域を広げてもらうように努力する必要がある。
販売員としてどのように見られればコミュニケーションがもっと楽にできるのか。参考になるのが昭和の黎明期の営業である。顧客が少ない時であったから、とにかく見込み客に食らいついたという表現が正しい。どうにかして良い関係を結びたいという迫力があった。だから相手は、自分のことや自分の仕事に関心を持ってくれる販売員だと思ってくれた。
売上計上客がある現状ではそのような迫力はない。しかし販売員をそんな風に見てくれたら現状でも話題は広がる。令和時代の見込み客開拓にはますますコミュニケーションが重要になる。普段から自分を理解してもらうにはどうすればいいのかを考えて営業をしていなければならない。