「破壊なくして創造なし」これを初めに口にしたのはプロレスラーの橋本真也氏だと言われる。重量感のある体形から放たれる強烈な攻撃で対戦相手に大ダメージを与えることから「破壊王」のニックネームで活躍した名レスラーだ。
冒頭の言葉は彼が自らの団体を立ち上げる際に言ったもので、実際は「破壊なくして創造なし、悪しき古きが滅せねば誕生もなし、時代を開く勇者たれ」まで続く。
氏は勧善懲悪の時代劇やヒーローものを好んだとされ、その影響をうかがわせる仰々しい言い回しだが、変革が必要とされる今の時代には刺さる言葉と心意気だ。
その一方で、コンサルタントをしている友人が仕事で工場を訪問し、こんな感想を漏らしていた。「あらためて実際の工場、現場に行き、その工場や設備の大きさと複雑さ、さらにそれを動かす緻密なオペレーションに圧倒された。普段から変革とかDX等の必要性を言っているが、リアルな現場を目の当たりにすると、それが簡単ではないことが容易に分かる。コストも膨大にかかるし、これは一筋縄ではいかないとあらためて感じた」。
現場は何十年もかけて今の形にたどり着いた。そこには技術と経験に裏打ちされた確かなQCDが確立され、さらには安全性や作業者同士が作り出す場の雰囲気などが出来上がっている。
それが今も動いて現在のビジネスを支えていることを考えると、それを破壊するようなやり方は今の事業にも悪影響を及ぼし、それは望むところではない。
「破壊なくして創造なし。でも今ある仕組みをたたき壊したら生活が立ち行かない」製造業をはじめ、日本のあらゆる産業がこのジレンマに直面している。それを打開するには2つしかない。
1つは「今ある仕組みとは別の仕組みを試す」。つまりはPOC、実験だ。ごく小さなものでもいい。その小さな波紋がいずれ大きな波になる。もう1つが「現場からの声をつくる」。つまりは啓蒙だ。日頃感じている違和感やおかしなこともデジタル化なら変えられる。いまの幸せで満足している状態もデジタルでもっと高めて持続していける。
内なる声は外からの声よりも強い。堅いガードも内からなら崩しやすい。内と外、硬と軟。破壊の仕方もいろいろある。