電気・電子機器商社大手のサンワテクノスがいま進めている営業施策のひとつに「マイクロ営業所」がある。その名の通り、きわめて小規模の営業所を地方都市に作って既存顧客と地域の優良企業への営業・サポート活動を強化しようという狙いで、第一弾として2019年7月に愛媛県新居浜市へ四国営業所を開設した。
顧客からの受けも良く、成果は上々。20年内には新潟県長岡市、山梨県甲府市、石川県金沢市にも増やし、来年には東北地方へも広げる計画があるという。
コロナ禍で全国的にテレワークが広がり、いつでもどこでも仕事ができる環境が整備され、多くの人がそれを体験して新たな働き方として受け入れるようになってきている。今後はさらに加速していくだろう。
そんななか、あえてリアルな営業所を設置するマイクロ営業所は、一見すると、時代の流れに逆行する、逆張りに賭けたアナログ施策のように見えるが、その認識は正しくない。マイクロ営業所の受発注や納期管理等のバックオフィス業務は、本社や大阪支店などの中核拠点がデジタル技術を活用してリモートからサポートしている。地域密着のリアルな営業所とデジタルツールをかけ合わせたハイブリッドな営業体制をつくり、最前線と司令部・補給基地を密に連携させ、気兼ねなく動ける仕組みとなっている。
また、地方で働く人はその地域の出身者が多く、そこに本社や拠点を構える企業はその土地に支えられているという意識を強く持っている。だからこそ、その土地に人と資本を投下して営業所を構えているという事実は大きな信用を生み、武器となる。どんなにリモートが便利で効率的であったとしても、人と人が五感で触れ合えるリアルさにはかなわない。このマイクロ営業所は、アナログとデジタルを絶妙にブレンドした素晴らしい施策だ。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やデジタル化というと、つい二者択一の思考になり、アナログなものを否定してしまいがちだ。しかしそれは大間違いであり、危険な考え方だ。
例えば、このコロナ禍で心の病を訴える人が増えているという。SNSやWEB飲みのようにデジタルで人とつながる手段はいくらでもあるが、傷ついた人の心を埋めるまでは至っていない。人はどこまでいっても五感をフルに感じられるリアルなふれあい、アナログな人との交流が求められている。
デジタルとアナログはあくまで相互補完でしかなく、一番に考えなければいけないのは、それらをどう使って「人の心を動かすか」に尽きる。人を中心に置かない、人を見ていないDXはDXではない。