リスク可視化しサプライチェーン再構築
COVID-19の世界的感染拡大を契機に、日系企業においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)を重視する機運が一段と高まっている。
その背景には、COVID-19感染対策への対応によって製造業の本質的な課題が顕在化した点にある。
まずは、サプライチェーン上の課題が挙げられ、単一障害点による広範囲の影響、単一拠点に部材や生産を集約することのリスクがあらためて認識された。2011年の東日本大震災の影響が自動車業界中心だった(世界市場で重要な部品の60%が福島に集中していたため、在庫の積み増しやモデル間での部品の標準化、代替製造能力の確立、調達先のマルチソース化等の対応を行った)のが、今回はさまざまな産業に広がっている。
米中対立による中国の国産化拡大、相互の報復によるデカップリングの加速も相まって、サプライチェーンおよびサプライネットワークの再構築や生産の複数拠点化の必要性が求められている。
他には、移動の制約に伴う活動の停滞が挙げられ、リモート化の必要性が認識された。特に、技術者間でのコラボレーションや、リアルでの検証・シミュレーションが必要な設計・開発領域には影響が発生した。
これらの課題解決に向けて、COVID-19発生時には企業の存続に向けて、現行のサプライチェーンにおけるリスクを可視化するとともに、オペレーション停止時の緊急対応策の検討等が優先された(RESPONDフェーズ:継続性の重視)。
現在はRECOVERフェーズ(危機から学び、強くなる)に入っており、多階層レベルのサプライネットワークの可視化(完成品メーカーとTier1だけでなく、Tier2〜TierXを横断したリスクの評価、調達先のマルチソース化、部材や完成品の在庫の積み増し等)を進めるとともに、顧客との連携強化を通じたオペレーションの同調性強化等が進められている。
今後はデジタル技術を活用した、柔軟かつ危機管理能力の高いサプライチェーンの再構築とワークスタイルの変革を目指していくべきと考える。(THRIVEフェーズ:新たな世界での成長)各業務のDXの推進・強化を図るとともに、リスク対応の予測・検知・指示をする管理能力の強化、End-to-Endでのサプライチェーンの可視化を通じた同調性・効率性の強化を進めていく必要がある。
①シンクロナイズドプランニング
拠点間および工程間の計画連動性向上、その前提となるデータ形式や管理単位の合わせ込み、システム間接続とデータ連携が求められる。需要変動に対して即応性を高めるための計画策定サイクル・リードタイムの短縮化を実現する。
②コネクティッドカスタマー
顧客接点をデジタル化してより早く自動的に情報収集できる仕組みを構築し、意思決定に反映する。直接の取引先からの需要情報に依存せず、最終製品市場の情報を自ら取り、突き合わせて検証し、過剰在庫と大幅な機会ロスを抑制する。
③ダイナミックフルフィルメント
倉庫や航空輸送能力の低下、輸送コストの変動等の予見は人力では困難である。倉庫や配送業者等の3PLとの情報連携により、政治的・地理的リスクへの即応性を強化、最適なロジスティクスの適時探索力を上げ、リードタイムの短縮とコスト低減を図る。
④スマートファクトリー
製造装置や搬送工程から得られるデータの自動収集・解析により生産性と品質向上を実現する。ラインから収集したIoTデータとMES/ERP等の基幹システムの連携が不十分なケースがあり、人手の分析によるスピード遅延、予知的なアクションの阻害等の解消をしていく必要がある。
⑤デジタルデベロップメント
バーチャルな製品開発、検証環境整備を推進する。設計・開発のコラボレーションツールを開発することで、生産拠点までオンサイトで技術者が出張する頻度を減らし、開発スピードとwith COVID-19のバランスを図る。
⑥インテリジェントサプライ
過去データに基づき、各サプライヤの変動即応性、オンタイムデリバリの履歴等を管理、サプライヤごとに在庫係数を設定する等、供給計画のインテリジェンスを高めていく。小規模なサプライヤであれば、COVID-19下で財務リスクも可視化する必要がある。
このようなDXの機運は従来あったが、今回のCOVID-19感染拡大が促進のドライバとなっているという認識である。
まず、1点目が組織・プロセス変革の必要性であり、従来存在しない現場(工場)から計画系(経営)にデータを上げる習慣・プロセスに対して改革を進めやすい環境にある。
2点目として、セキュリティの許容にあり、工場外や外部プレイヤーへの情報連携を一部許容する傾向にあり、強固なサプライチェーンや早期の拠点立ち上げが優先されている。
3点目としてCXOによるトップダウンアプローチがある。部門間およびサプライチェーンの壁の解消にはCXOの関与がマストだが、COVID-19対応により必要性が再認識されている。
最後に、自社内の工場と経営、顧客-自社-サプライヤの企業間で、異なるデータやプロトコル等を統合して、情報や業務プロセスを連携させる統合基盤に対する投資意欲があると考えられる。
以上の通り、今回の危機的状況をプラスと捉え、日系製造業のDXに対する取り組みが加速し、競争力強化につながることを期待したい。
◆デロイトトーマツコンサルティング合同会社 中村智行(なかむら・ともゆき)
電機・ハイテク産業を中心に、新規事業・サービス企画、経営管理・組織再編、業務改革、技術戦略等、幅広いプロジェクトを手掛けている。近年では、スマートマニュファクチャリング・ファクトリー領域を中心に活動している。