新型コロナウイルスに揺れ動いた2020年も幕を閉じようとしている。
本年を振り返ると、武漢発新型コロナの製造業への影響は、サプライチェーンの毀損(きそん)を顕在化させた。中国への過剰依存が浮き彫りになり、多くの経営者が『これはヤバい』と感じ、経営先行き不安が一気に始まった。特に中小製造業にとっては、5月のゴールデンウイークの頃から受注の激減が顕在化し、経営者の不安は頂点に上り詰めている。
世界に目を転じると、欧米での社会混乱は壮絶である。新型コロナ感染者が日本に比べ桁違いの数で発生し、独自防衛に狼狽する各国の姿が映像を埋め尽くすとともに、国を超えた人の流れがストップした。グローバル化の優等生であるEU(欧州連合)ですら、各国の独自な防衛策を優先したロックダウンが行われ、EUには大きな亀裂が入った。事実、新型コロナウイルスにより、グローバル化を標榜した欧州連合は存続の危機に立たされている。
米国でも南北戦争以来の内戦が起きている。本来であればトランプ再選のはずが、コロナ禍によりバイデン台頭を許し、11月3日の大統領選挙での結果から、バイデンが勝利宣言を行った。ところが、『バイデン民主党による不正選挙の疑念』は、強烈な証拠を背景に疑念は拭い去れず、日増しに法廷闘争は激化してバイデン民主党への攻撃が米国内で過激化している。バイデン勝利の大手メディアの報道とは裏腹に、米国の内戦は収まらず、最終結果は極めて不透明である。バイデンが大統領になっても、トランプが逆転勝利し再選を果たしたとしても、米国は国家を二分する危機に陥っており、米国の衰退が危惧される。
誰も経験したことのないコロナ禍の中で、日本の中小製造業はどうか? 筆者の経営する会社(アルファTKG)では年末を前に精密板金業界の中小製造業に焦点を当てて独自調査を行った。その結果によると、日本の精密板金各社の20年の売上高は、コロナ禍により平均20%~30%の大幅減収となったが赤字企業は想像以上に少なかった。
リーマンショック時と比較すると、コロナ禍による影響は当時とは明らかに異なり、比較的余裕のある危機であったとも断言できる。もちろん業種間の格差は大きく、工作機械カバーなどを製造する精密板金企業は、受注の激減に見舞われている一方で、医療機器、半導体関連、中国向けロボット需要が急増しており明暗を分けている。
リーマンショックと比べ、なぜ余裕があるのか? を分析してみると、①資金調達の容易性②為替の安定③株の上昇の3つの特徴が見いだせる。リーマンショックの発生とともに減少した需要(受注高)は、30%程度で今日のコロナ禍と大差はない。ところが、名門の金融業界が破綻したリーマンショックのときと比べ、金融業界は盤石であった。各企業に各銀行はじめ政策金融公庫などが、(政府の方針を受け)超低金利での融資を実行したことは最も違った点である。
もちろん中小製造業各社の手持ち資金の厚さも無視できない。コロナ禍以前の数年間は中小製造業にとっての黄金時代であり、この間に内部留保をため込んだ企業も多い。コロナ禍にあっても『中小製造業に資金不安は少なかった』と言う。また、急速な円高に見舞われたリーマンショック時とコロナ禍とは大違いで、日本の製造業界に安定をもたらしたと言っても過言ではない。30%以上も為替変動したリーマンショック時には、輸出企業にとっては需要が3割減少の70%となり、為替が同じく3割円高の70%(円建換算)となり、輸出売上高は70%×70%=49%、すなわち半減以下となった。これと比べ、為替の安定は日本製造業にとっての福音である。
このような背景があって、幸いに日経平均が上昇している。株の上昇を悪とする評論家を時々散見する。『株の上昇は、一部の金持ちだけに恩恵をもたらし、庶民には関係ない』との論調であるが、この声には賛同できない。株の暴落は、すべての国民や企業に(結果として)不利益を与え、株の上昇は(結果として)人々に利益を与えるので、今日の株の上昇は極めて喜ばしいことである。
前述のように、リーマンショック時と比較すると中小製造業にとって良き外部要因もあったが、必ずしも予断を許すものではない。秋口から回復基調を示す日本の製造業も、残念ながら旺盛な中国経済に支えられており、国内需要や欧米需要の回復は弱く、本質的な製造業再起動の動きは明確には見えていない。
また、コロナ禍はウイルスによる健康問題以上に、過剰なメディア報道によって内需は傷つけられている。連日のコロナ報道は、国民に恐怖を植え付け、国民の消費行動は鈍り、壊滅的な影響を受ける産業はその打開策を見いだせず、廃業や自殺者を生む社会を醸成している。特にサービス産業はその影響を一身に受けているが、製造業も決して例外ではない。
連日のコロナ報道の裏側で、中小製造業の今後の生死を左右する重大事件も起きている。米国の衰退やグローバル経済の後退は顕著であり、大きなパラダイム・シフトが発生しているが、こうした報道は稀有である。中小製造業の経営者にコロナ禍の総括コメントを求めると『コロナ禍で、新たな気づきがあった』という前向きな答えも多い。その内容は『テレワークの有効性に気づいた』『従業員の無駄作業に気がついた』との声が多い。それも重要なことであるが、それ以上の重要、かつ衝撃的な外部環境変化が中小製造業に襲いかかろうとしており、本格的な経営見直しは必須である。
20年は、コロナ禍で開けコロナ禍で暮れようとしているが、本当の大変化が起きるのは来年の21年である。年明け早々、米国大統領の決着と東京オリンピック・パラリンピック中止のトップニュースに触れ、中小製造業の新たな試練と歩みが始まるだろう。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。