株式会社アルファTKG 社長 高木俊郎
『あけましておめでとうございます。』…しかし、
普段の年とは違うお正月がやってきた。
昨年暮れの忘年会も、年明けの心引き締まった賀詞交歓会もすべてコロナ禍に奪われ、明るい話題の乏しいお正月である。平素なら、お正月には新たな気持で神社を参拝し、新たな一年の心構えを誓うものである。『去年はこうだったが、今年はこうしよう…』こんな小さな希望と勇気のキッカケが『お正月』である。
ところが、今年の正月は『コロナ禍正月』明けても暮れてもコロナ。テレビでは、コロナ報道が繰り返されている。
2021年、守れば「凶」攻めれば「大吉」
コロナがキッカケで世界の景色が一変している。2021年は、未来を左右する重要な年であり、中小製造業にとっても、2021年が未来を決める「分水嶺の年」となるだろう。
日本を取り巻く外部環境は、風雲急を告げている。米中の覇権争いは続き、日本が戦争に巻き込まれる危惧を否定できない。米国をはじめとしたグローバル経済の衰退や、中国の影響力増大など、中小製造業を取り巻く経済環境が激変しており、コロナが終息してもこの時代の流れは止められない。
2021年とは、中小製造業にとって『どんな年か?』。確実に言えることは、歴史の潮目が変わる節目となる事は間違いない。
『過去の常識が消え、新たな時代の常識が生まれる』史上最大のパラダイムシフトを、我々は共有している。
正月の占いではないが、中小製造業にとっての2021年は吉か凶か? その答えは、(他力本願ではなく)『吉』それも『大吉』の年。…としなくてはならない。中小製造業にとって今年を『大吉』とするキーワードは『攻めの変革』。2021年、守れば「凶」。攻めれば「大吉」。2021年は、未来の道を決める『分水嶺の年』である。
大企業神話と系列(ケイレツ)の崩壊
日本の大企業神話が崩壊している。コロナ禍の影響から、ANA(全日本空輸)は大打撃に陥り、学生には超人気であった優良企業から一転し、リストラ企業に転落した。みずほ銀行など大手銀行や朝日新聞など新聞業界でも神話崩壊が進んでいる。
大手製造業も例外ではない。
テレワークや対面活動禁止など、大手製造業は先導して新型コロナ対策に取り組んでおり、世間からも称賛されているが、実のところこの方針により、労働生産性の低下が加速し、テレワークによるうつ病社員も増加し、将来が非常に不安であり、学生達からの人気も急降下している。大企業神話が崩壊し、『寄らば大樹の陰』は通用しなくなった。
戦後社会のものづくりは、大手製造業を頂点とするピラミッド構造『系列(ケイレツ)』である。1990年代バブル経済以降、大手家電メーカを中心とした大手製造業の凋落は、日本経済の悲劇でもあり、系列崩壊の序曲でもあった。2021年こそ本格的な系列崩壊の最終章が始まるだろう。
中小製造業の一般的な形態は、独自の販売組織を持たず、系列に依存してきた。今後、販売力の弱さが、アキレス腱になってくる危惧がある。中小製造業は、販売力を強化し、新たな受注先を独自で開拓する受注競争時代に突入するのである。
今後必要となる中小製造業の販売手法は、インターネットを使うデジタル販売体制の構築である。SNSやホームページ・ブログ・ユーチューブなど様々なデジタル販路構築の手法があるが、その具体策の探求には、DX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせない。
2025年の崖とDX(デジタルトランスフォーメーション)
2021年攻めの変革に、DX(デジタルトランスフォーメーション)は避けて通れない。
DXとは、かつてスウェーデンのウメオ大学ユリック・ストルターマン教授によって提唱された概念であり、様々な定義と解説がなされているが、一言で言い表せば『最新デジタル技術を活用した変革』であり、各製造業が今日にまで進めて来たデジタル化とは異なり、最先端技術(クラウドや人工知能など)を活用した製造業のデジタル変革をDXという。
日本では、2018年に経済産業省が発表した『2025年の崖』というDXレポートを公表したことから、一気に注目され始めた。
『2025年の崖』とは、『DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する研究会』が発信した『DXレポート』である。その内容は衝撃的なものであり、『DXを実現しないと企業は存続できない』との警鐘であり、2021年攻めのポイントでもある。
経済産業省は、各企業が現在使用中のシステムによって競争力が大幅に低下すると断じ、その期限を2025年と明示した。
中小製造業でも、生産管理システムやCAD/CAM、ネットワークシステムなど多義に渡るソフトが導入されているが、これらのシステムはレガシーシステムと呼ばれ、これらのシステムを保守・改善してもDXにはならない。どころか、レガシーシステムに依存したら企業は存続できないとの警鐘が、『2025年の崖』である。
第4次産業革命・デジタルの先にあるDX4階への増築をしよう
産業革命の歴史は、大昔の大英帝国(イギリス)で機械が誕生し、米国で電気が誕生した第2次産業革命を経て、約半世紀前の第3次産業によるコンピュータ活用の自動化工場誕生に至る。日本が世界の製造立国として君臨したのは、第3次産業革命の賜物であり、多くの中小製造業でも世界に先駆けてデジタル・自動化工場が稼働した。 現状の中小製造業の工場は産業革命の産物である。建物に例えると、1階に機械、2階に電気(NCやシーケンサ)、3階にコンピュータ(生産管理やCAD/CAM)で構成される3階建である。DXは第4次産業革命の技術を活用したデジタル変革の事を言う。5Gなど先端技術の米中戦争も、第4次産業革命の覇権争いが根本にある。
中小製造業では、現在の3階建(機械・電気・コンピュータ)を、4階建へ増築することで第4次産業革命の技術を享受することができる。増築する4階は、DXそのものである。コンピュータ上にある仮想工場が構築され、漫画「ドラえもん」のように、世界中どこでも、未来にも過去にも行ける。シミュレーションによる生産予測と最適化も可能になるし、発注元や外注購入先との接続も自由自在である。これをサイバー工場と呼ぶ。
4階のDXとは、エンジニアリング全体やサプライチェーン全体を包括するシステムであり、発注元の三次元データとのシームレスな結合や、外注・購入先までもデジタル技術によって結合されるのがDXであり、デジタル化の先にあるのがDXである。
4階のDXを支える技術は、第4次産業革命のクラウドや人工知能・RPAなどの活用である。3階のWindowsをベースとしたレガシーシステムとは全く異なるのである。
2021年中小製造業のデジタル変革とは、現在の3階建て(機械・電気・コンピュータ)にDXを加え、4階建に拡張することである。
自動化と非対面製造モデルNNF(ニューノーマルファクトリー)
新型コロナウイルス拡大に伴い、ニューノーマル社会に適合した工場経営も重要となる。
2021年のデジタル変革は、『人海戦術から自動化へ』『対面製造モデルから非対面製造モデルへ』である。
昨年まで、人手不足を背景に、外国人労働者の活用が叫ばれ、多くの中小製造業でも単純作業を外国人労働者に依存しようとする動きが活発化した。ところが、コロナ禍をキッカケに外国人労働者依存の施策は過去のものとなったが、幸いにRPA(ソフトロボット)の活用は急速に広まっており、事務所の単純コンピュータ操作作業はRPAに取って代わっている。幸い、中小製造業におけるRPAの活用範囲は広く、自動化の実現が可能である。
また、三次元CADを活用したエンジニアリングDXの充実により、製造現場でのロボット活用の範囲が広がり、製造現場の自動化が加速する。特に溶接工程の自動化には、特殊ジグ製造が必要となるが、3Dプリンターなどの活用を並行することで、一気に自動化の水準が上がる。検査工程なども、三次元CADの活用による検査工程のイノベーションも可能である。
2021年は、人海戦術から自動化に本格シフトするエンジニアリングDXを軸とした、デジタル変革が必要である。
また、工場内の随所で発生する製造打ち合わせを、デバイスを活用した非対面打ち合わせに変革することができる。製造工場をテレワーク化することは難しいが、ズームなどのミーティングソフトは、非対面製造モデルを構築する最適なツールである。
上述の攻めの変革が、NNF(ニューノーマル工場)であり、コロナ禍から学ぶ必須の変革である。
最後に
難局に直面する2021年であるが、中小製造業にとっては大きなチャンスと捉えることができる。第3次補正予算などで、過去にない水準の助成金なども準備されており、DXによる攻めの変革を実行できる最高の条件が整っている。
また、第4次産業革命がもたらす経営効果は想像を絶する効果が実証されている。RPA・人工知能・クラウド等々、これらの技術を投入しない中小製造業が発展するだろうか?
中小製造業にとって、2021年が凶となるか? 大吉となるか? …その答えは、はっきりしている。
高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。