【製造業DXへの道 (2)】生産における5Gへの期待と課題 協働で実証実験行い技術成熟化支援を

5Gは超多接続・超低遅延という特性により、企業の各業務およびサービスの高度化・生産性向上を実現する産業向けのネットワークとして期待が寄せられている。一方で導入および期待されている効果を発現させるためには、多様な課題が存在している。

本稿では期待されている生産における5Gのユースケースおよび効果について言及した後、実現課題および課題への対応方向性について考察していく。

5Gのユースケースおよび期待効果については、おおむね3つに収斂されている。

①無線化による工程設計・変更の自由度・柔軟性の向上
有線ネットワークを無線化することで、有線ケーブルの硬直性を解消する。

②自律型ロボット(AMR/AGV)等のモビリティ技術のフル活用
ロボットがネットワークでMES等のシステムとつながり、連携することで、自律化し、状況に柔軟に対応可能にする。

③データのリアルタイム活用による生産性の向上
データ転送容量の増加・低遅延という特性を生かし、各工程の生産に係るデータをリアルタイムに収集・利活用することで、品質向上・歩留まり改善を可能にする。

これらのユースケースについては、多様な企業が連携しながらすでに実証実験を行っており、期待値が高いことは間違いないが、実用化に向けて高い壁があるのが現状である。

主な課題は、5Gシステムの技術的な成熟化はもちろんのこと、①生産現場と5G等のデジタル技術の融合が不十分であること、②ローカル5Gシステムが高額であることが挙げられる。

普及に際しては所謂キラーアプリケーションが登場することが重要であるが、生産現場と5G等のデジタル技術の融合が不十分であるが故に、現状では登場していないと思量する。

5Gを活用した生産現場の高度化においては、生産現場・生産工程の課題が分かることに加えて、5G等のデジタル技術をどの様に駆使すれば高度化・生産性向上を実現できるのかが分かることが重要である。

しかし、ユーザー企業の工場および生産技術部門においては前者については熟知しているものの、後者については知見が不足している。さらにユーザー企業を支えるためのソリューション提供企業においても生産工程・設備は分かる企業と5G等のデジタル技術が分かる企業は連携が進みつつあるも、現状は分かれておりユーザー企業を支えるだけの十分なエコシステムが形成されている状況ではないと考える。

工場において5Gシステムを活用する際には、信頼性を担保するためにもローカル5Gの活用がポイントになるが、当該システムおよびその導入に係る費用が高額なことが問題である。

例えば、総務省の“地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証”では、ローカル5G等を活用して地域課題解決を実現する実証を予定しているが、19の実証事業で総額約37億円の予算を確保している。単純計算すると、1事業あたり約2億円の予算配分となることからも高額であることが分かる。

課題解決の方向性について考察してみたい。課題①である生産現場と5G等のデジタル技術の融合が不十分であることについては、生産技術部門のデジタル技術強化を実現するための組織・人材強化が挙げられる。採用や外部企業との連携によって強化を図るという方向性もあるが、採用要件の抽出や外部企業の選定をするためにも、まずは自社リソースを最大限活用し、足腰の強化を図ることが肝要と推察する。

例えば、株式会社IHIではデジタル変革に携わる人材を社内公募し、独自のデジタル人材育成プログラムを通じて、デジタル技術の強化を図っている(出所:経済産業省「製造業DX取組事例集」)。株式会社IHIは2020年4月に高度デジタル人材に報酬2000万円以上を支払う新制度を発表し、採用市場に対して働きかけを行っているが(出所:2020年4月27日 株式会社IHIプレスリリース)、この様な施策を打ち出すことができたのも社内人材の育成を通じてデジタル人材の価値と求める役割が明確になったからこそと推察する。

課題②のローカル5Gシステムが高額であることについては、仮想化技術を活用した基地局(vRAN〔virtualized Radio Access Network〕)がポイントになると考える。専用ハードウエアであり高い信頼性を担保するために設計されている通信キャリア向けシステムであることが高額である要因の一つである。

vRANはサーバーなどの汎用ハードウエア上にソフトウエアによって機能を実装することで、機能の柔軟な拡張と低コスト化を実現するものである。すなわち高額な専用ハードウエアからの解放が期待されている。日本では楽天株式会社が展開する楽天モバイルにて実装されている技術だが、黎明期の技術であり通信業界における技術研鑽が今後必要である。

ユーザー企業においては“技術の成熟化を待つ”という姿勢が基本であるが、デジタル化の恩恵を早期に受けるためにも、実証実験を協働で行い能動的に技術の成熟化を支援するというアプローチも肝要になる可能性がある。

今後の連載でも5G活用に係る課題について引き続き考察していく。

◆デロイトトーマツコンサルティング合同会社 シニアマネジャー 高橋成禎
エレクトロニクス業界を中心にAI・IoT等のテクノロジー領域での事業戦略・市場参入戦略等のコンサルティングサービスに従事する。近年はデジタル× Automotive/Industrialをテーマにエレクトロニクス業界の車載・産業向け事業戦略策定支援を行う。

https://www2.deloitte.com/jp/ja.html

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