今回はいつも述べている当社の「簡単ティーチングソフトRobotWorks」とは違う内容を述べる。
ロボットの「目」はカメラだけではない
最近、筆者が産業用ロボットのコンサルタントとして、多くの企業を成功に導いているうわさが広まってきたのか、当社に多くの企業から「ロボットの先端にカメラを付けて製品の検査をしたい」「カメラで製品の位置を把握して、ロボットで加工をしたい」という問い合わせが来るようになった。要するに、人間に例えると「ロボットは腕」「カメラは目」なのだからこの2つを組み合わせれば「検査」や「汎用的な加工」がうまくいくはず、という考え方である。
一見、この考え方は正しいように思えるが、実はこの安易な考え方がロボット導入の失敗の元である。
誤解がないように一言そえると「カメラがロボットに不向き」と断定しているわけではない。カメラ以外の選択肢もあるということを学んでほしい。また、ロボットメーカーの選択も重要である理由も述べる。
他の選択肢
まず、カメラ以外の選択肢を以下に3つ挙げ、その特徴も述べる。
(1)レーザーセンサー。高精度で高速判断ができる。熱にも強い。ただし、ちょっとした光で反応してしまう為、製品に光沢がないこと、太陽光がささない場所での作業が必須条件となる。また、サビの凹凸、ほこり、水でも反応してしまうこともある。
(2)超音波センサー。範囲が広く、レーザーの10倍にあたる10メートルくらいが可能。また、ほとんどの材質に対応可能。ただし、精度や判断速度が劣り、熱に反応してしまう。
(3)接触センサー。文字通り接触して判断するのでミスがなく、確実性はダントツで優れている。ただし、ロボットを測定したい場所に当てにいく必要があるため、時間を要する。また、センサーを別のヘッドと同じ方向にすることができない(理由=ヘッドと干渉する)ため、測定のたびにロボットの体制を変更する必要があり、正確性に欠ける。よって、サイクルタイムと精度に余裕があれば、この選択になる。
また、価格に関してだが、これら3つ全て「高精度のカメラ」と比べると、ゼロが2つ違うほど安価である。さらに、この3つ全てを1つのロボットの先端に取り付けることも可能なため、製品や用途に応じて汎用的に使う手もある。
カメラの弱点
では、カメラは何が弱点かというと「範囲」「精度/コスト」、そして「時間」である。それぞれについて簡略に述べる。
(1)範囲
範囲が狭く、製品の大きさによっては、ロボットの先端にカメラを付けてロボットを動かしながら撮影をすることを繰り返さなければならない。なお、遠くから撮影すると範囲は広がるが、精度が大きく落ちるので、有用ではない。
(2)精度/コスト
例えば、カメラで撮影した画像を解析して検査などを行っても、画質が荒いとその分精度が落ちる。また、解析にも誤差があるので、カメラの画素数を上げれば何とかなるという単純なものではない。また精度が高いカメラは非常に高額であり、通常ロボット1台に1つが必要なので、例えばロボットが5台あれば、カメラ5台分の投資が必要になる。となると、よほど多くの製品をさばかないと投資した額を回収できない。
(3)時間
これが最も素人に誤解されやすいのだが、意外に時間がかかる。「カシャっと撮影して終わりでは?」と思われるかもしれないが、撮影した画像を解析ソフトで解析する時間が結構かかる。さらに解析が100%うまくいくわけではなくエラーが起こるので、再度の解析を行うか、もしくはエラー後にどう処理をするか、を考慮したシステムにする必要がある。この解析とエラー系の処理時間を侮ると、サイクルタイムが膨大になり、人が作業した方がマシになってしまうことがある。そうなると、せっかく導入したロボットが埃をかぶる事態になる。
なお余談になるが、画像の解析ソフトはいろいろと販売されているが、購入したらそのまま現場で使えるということは有り得ない(顧客のために開発されたわけではないパッケージソフトが、現場にピッタリとマッチすることは有り得ない)。よって、解析ソフトのカスタマイズは必須であり、場合によってはほとんど1から開発をすることになる。そのためにはプログラム開発の知識が必要で、自社にプログラマーもしくはSE(システムエンジニア)がいる企業は良いが、一般的なものづくりの企業は、ソフトを得意とする企業に外注することになるだろう。
この外注の開発費用は、まともな企業に依頼すれば、ロボットシステム全体の費用を大幅に押し上げるほど高額になる。ちなみに、安価で済む企業に開発を依頼すると、見た目はうまくできたように見えても、現場では悲劇を生むことになるのが「現場あるある」なので注意してほしい。
次回は、ロボットの「目」としてカメラが最適な用途、「目」を使うロボットシステムで失敗をしないために注意すべきことを述べる。
【著者】
◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。