技術の基礎知見を高めるための調査をどのようにやらせればいいかわからない
自主性養い調べる習慣づけを
技術者にとって技術の基礎知見に関する調査(調べもの)をどのようにやらせるか、というのは技術的なスキルアップの観点からも極めて重要です。
技術の基礎知見習得に最重要なのは知的好奇心
技術的な調査、特に技術の基本的な部分は教えてもらうこと、そして実務を通じて習得することが重要ですが、技術者が若いうちに身に付けておきたい姿勢が、「自分でわからないことを調べる」というものです。
技術者のスキルアップ速度勾配は、知的好奇心とかなり強い相関があります。知的好奇心が強い技術者は、教えを乞う、実務を経験することに加え、自分で調べながら前に進むということができることが多いです。
逆にいうとある程度教えながら、そして実務を経験させながらも、技術者育成の主軸にあるのは「自分でわからないことを調べる」ということの「習慣づけ」です。そのため、初期の頃はある程度教えてあげながらも、ある程度のところまで来た段階で、「そこは自分で調べてみてほしい」という形で自主性を持たせることがポイントになります。すべてを教えてあげてしまうと、「教えてもらう」ということがすべてと勘違いしてしまうためです。
技術の基礎知見習得に向けた技術者育成の注意点
このような育成においていくつか注意点もあります。
まず一つ目が、「インターネットの検索はあくまで補助的にする」ということです。インターネット自体は情報の共有スピード等、基本的にはメリットが非常に多い。技術的な情報についても、一昔前までは図書館の蔵書を調べながら文献を調べなくてはいけなかったものが、有償、無償とありますが、きちんとした論文も電子データで簡単に得ることができます。これは画期的な事です。
ただし理解しておかなくてはいけないことは「インターネット上に公開されている技術的な情報は玉石混交である」ということです。ここでいう玉石混交の背景にあるのは、「論文や書籍と異なり第三者による校閲が無い」ということです(インターネット上の電子データでも校閲された論文や書籍の内容はこの限りではありません)。つまり、それが本当に正しい情報なのかがあやふやな情報もインターネットにあるということです。
この対策としては、「書籍化されている専門書」を中心に調べるということが一案です。私は今でもわからないことがあると理化学辞典や、各領域の専門書を確認するようにしています。そして、それらの情報がインターネット上の情報と比較して、明らかに違うこともあります。その一方で、専門書が手元に無く、また技術的な知見を享受できる社内外の人物が居ない場合、インターネットはその補足としては役に立つ場合が多いです。
ただ繰り返しになりますが、あくまで専門書が調査の主軸になることを徹底することが肝要です。
もう一つの注意点は、「抱え込むパターンの技術者の場合、まずわからなければ聞きにくるようにさせる」ということです。今回の育成のポイントの前提にあるのは、技術者がわからなければ人に聞こうとする姿勢がある場合です。技術者の中には専門性至上主義にとらわれて、わからないことを聞かない技術者もいます。そのような技術者の場合は、専門書で調べるということに加え、「まずは、上司や社内の人間に相談する」ということを覚えさせることが重要です。
技術者育成のご参考になれば幸いです。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。