令和の販売員心得 黒川想介 (41)新市場開拓は「あいさつ」から 顧客訪問で養われるコミュ力

人は社会生活をする上でコミュニケーションを必要とする。その良し悪しによっても人生の彩りは変わるものだ。

販売員にとって、コミュニケーションの上手・下手は本来、売り上げを左右することにもなる。社会に出て間もない機器部品販売員は配属後、営業というものに慣れないから、相手とどのようにコミュニケーションをすればいいか戸惑ってオロオロする。顧客を担当するようになると、顧客から用件を依頼され、それをこなしていくうちに顧客との付き合い方を覚える。しかしコミュニケーションの上達はかなり遅い。感受性の強い子供の頃から知らない人と話をするなと戒められてきたから、関係のできていない人との接触の仕方に手間取ってしまうと言われている。

昭和の子供も知らない人とあまり話をするなと言われていた。知らない人とみだりに話をするなという教えは、昔も今も五十歩百歩であるが、現在の販売員のコミュニケーション力の上達はかなり遅い。コミュニケーションをつけるには時間がかかるものだ。しかし訓練次第では早めることができる。

昭和の販売員は、確かに現在の販売員よりもコミュニケーション力はあった。と言うのも、販売店が扱う商品の種類は少なかったし、自動化が未成熟な現場では使用する機器部品の種類も少なかった。そのために、客先訪問時には軽い挨拶の後にいきなり商品の説明には入れずに、コミュニケーションで間を取った。だから客先訪問は自然にコミュニケーションの訓練の場となっていたのだ。

現在では、機器部品の種類は多く機能も複雑であるため、論理的な説明やプレゼン力が重視されている。見込み客や顧客は技術者であるから、当然それらのスキルの習得を目指して研鑽を重ねてきた。販売員はそれらのスキルで相手の気を引く営業活動をしてきたため、コミュニケーションで間を持たせる必要はなかった。

まだ経験の浅い販売員に質問してみた。「顧客現場の技術者を訪問する際、用件に入る前に挨拶をすると思うが、どのような会話をするのか」と。大体の販売員の答えは、天候の事やお忙しいですかという程度であり、相手の個人的な事で話す話術があればそれに触れるというような事であった。つまり、個人的に親しくなっていない技術者を相手にすると、簡単な挨拶後、すぐ用件に入るしかないというのが現在の販売員である。

商品紹介や用件の打ち合わせは、論理的な説明を中心にした会話のやり取りであるが、コミュニケーションは感情的要素の強い会話のやり取りになる。販売員が顧客を訪問し用件に入るまでの「間」は、自分はどのような販売員かを伝える重要な時間なのだ。

かつての教えであった「営業はまず自分を売って、次に会社を売って、最後に商品を売れ」と言ったように、自分を売ることが先決で商品は後なのだ。昭和の販売員が苦し紛れに身に付けていった「自分の売り方」は、名刺交換から相手に「それで今日はどのような用件で」と言われるまでの間を、できる限りの力で会話を長く伸ばすことだった。これを何度もやっているとさまになってくる。

現在は、見込み客訪問は少なくなった。だから実践数が少なくて身につかない営業のスキルは多々ある。商談に入る前のコミュニケーション力はその一つである。自分を売るためにする商談前のコミュニケーションは難しい。通り一遍の挨拶で済ませてしまっているから、何年やっても同じだ。

実践が少ない場合に身につけなければならないスキルは訓練で身につく。商談前の挨拶はスピーチをする場合と同様に、挨拶文を考えて準備をして練習することだ。令和時代の新市場の見込み客開拓は、挨拶から火蓋は切られるのである。

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