今日のコラムでは、若手技術者に技術的な資格を取らせるべきか否かということについて考えてみたいと思います。
技術系の資格とは専門性至上主義を有する若手技術者の中には、資格というものにこだわりを持つ方も居ます。技術系の資格という意味では、代表的なものだけでも以下のようなものがあります。危険物取扱者、電気主任技術者、機械設計技術者、機械保全技能士、非破壊試験技術者、技術士。どれも公的に認められた資格であり、それを取得することにより関連する専門的な知見を有するという証拠の一つになります。
また危険物取扱者等、有資格者が事業運営に必要なものもあり、技術系の資格というのは企業にとっても無視できない存在です。
若手技術者が資格の取得を目指す心理
若手技術者が資格に興味を示す場合の主な心理は、「有資格者ということで優位性を感じることができる」「転職する等のケースになった場合、有利になる」というどちらか、または両方です。
資格を取得するには一般的に何かしらの試験が必要であり、できるかできないかわからないものを目指す日々の研究開発業務と比較すると、「試験での回答率を上げるという学校教育で培ってきた対策がそのまま通用しやすい」ということもあり、とっかかりやすいという側面もあります。
特に資格取得に対する参考図書や問題集等が本屋さんで気軽に手に取れるようなものについては、自分が受験生に逆戻りしたような錯覚を起こさせ、学校教育で優秀な成績をおさめてきた若手技術者にとっては青春時代再来という印象もあるかもしれません。
技術者は若手であっても立派な社会人
しかしながら、お金を払って習うのではなく、仕事をしてお金をもらうという立場になっている以上、若手と言えども技術者として持っておかなくてはならない視点があります。
それは、「技術者としての本当の技術スキルは実務で試行錯誤することでしか得られない」という考えです。
マネジメントとして若手技術者に求めることは、「一刻も早く自ら考え、能動的に動くことで課題発見とその解決までを実行できる技術者になること」です。見方によっては、業務経験を積み重ねる時間を削減して、「資格試験の勉強にあてる」というのはあまりにも勿体ない話です。実務を通じた試行錯誤と、それによる成長は若いうちでしか実現できません。40代半ばにもなってしまうと、これらの経験を自らの血肉にする柔軟性が失われてしまうのです。
事業者として従業員に取らせる必要がある資格を除き、個人的なスキルを証明する資格はその人に対するメリットに限定されます。そういう意味でも、若手技術者に資格を取らせるメリットはほとんどないというのが私の考えです。
資格の勉強に使う時間を、1分、1秒でも実務経験の蓄積に使い、一刻も早く自らの限界を感じる壁にぶち当たるという経験をすることが、結果として若手技術者のベーススキルの成長を後押しできます。
若手技術者の資格取得における盲点
ただし、資格取得を前向きにとらえるという観点も理解しなくてはいけません。
一つ目は上でも述べましたが、「事業運営に必要な資格取得」という場合です。これは、事業として必要なことですので業務の一環として資格を取得させることは必須といえます。逆に国から求められている資格取得をはじめとしたルールを守れない企業は、コンプライアンスの厳しい昨今にあっては、存在価値が失われる可能性さえあります。
もう一つ前向きに捉えるべきことは、「自己啓発として自ら取り組む資格取得」です。自己啓発ですので、業務中の時間を使ってはいけません。自分が興味ある資格を、自らの余暇の時間を使って取得を目指すということについては、マネジメントも業務時間外ですので口出しする必要はないでしょう。場合によっては実務と全く関係のない資格を取ろうとする技術者がいるかもしれませんが、それは若手技術者本人が決めたことですので自由です。これらの余暇を使って自発的に資格を取るという行動は、「若手技術者の日々の業務のモチベーション維持」というものに大きな好影響を与えます。
本来は実務と近い話で、自己啓発として資格取得を目指すのであれば理想的ですが、必ずしもそうとは限りません。趣味や興味ある事を突き詰めるということが、結果として技術者の育成で最重要の「若手技術者のモチベーション維持」ということにつながることを考えれば、ここは若手技術者の考え方を尊重すべきです。
若手技術者が強い興味を示す技術的な資格。
すべてを頭ごなしに否定するのではなく、実務経験差最優先であることを理解させながらも、その資格取得が事業として必要か、若手技術者が業務時間外でその取得に取り組んでいるか、という所見極めていただければと思います。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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