機器部品販売員の営業の基礎教育終了後に、一人一人感想を聞いてみた。一番多かった感想は、営業をする上でいかに人間関係構築の仕方が重要であるかを知りましたという事であった。それまでは、扱い商品全般を習得すれば営業は上達すると思っていたようだった。商品さえわかれば顧客と商談ができるし会話も弾むと思っているのが、現在の機器部品販売員である。他人との関係は一定の距離を取るように育ってきた若者達であるから、人間関係に関しては希薄である。しかし営業は人間関係が濃い仕事であるからそうは言っていられない。
機器部品営業でも、かつては人間関係が重要視されて先輩に人との付き合い方を学んだし、いい人脈を作っている販売員は評価された。その後、機器や部品が次第に難しいものになってくると、販売店では技術的に顧客とやり取りができる販売員の育成に力を注いだ。そのような傾向が長く続いた結果、営業の根底にある人間関係に関する教えが希薄になった。何事も基本や基礎を蔑ろにしてうまくいくものはない。
令和という新時代に入った。時代の変わり目は一つの節目である。これまでを総括する機会である。販売員教育に関しては営業の基礎をもっと重要視する必要がある。令和という節目に、改めて顧客や市場に目を移してみると、それまで日々の活動に追われてはっきりとは気づかなかった現場の変化が見えてくる。長らく製造の現場は個々の改善、手直し、リニューアル一本槍のようであったが、令和に入って販売員達の会話の中に、個々の改善やリニューアルだけでなく、現場では何か新しい動きがあることが窺われる。それなのに機器部品の営業は、従来からやってきたやり方をあまり変えてはいない。新しい事と言えば、新しい商材はないかと探す事や、顧客に合った技術力を身に付けてさらなる顧客満足対応をすることのようである。これまでも顧客や市場は日々変化してきた。販売店はこれらの変化に対応し、商材に関しては新しい商材を取り入れ、拡販体制をつくって成功させてきた。
販売店が新しい商材を取り入れるケースはいくつかある。例えば①顧客から依頼されて対応する②メーカーから拡販依頼を受けてチャレンジする③戦略的に商材を探してチャレンジする、というようなことである。①と②の場合は顧客からの依頼とメーカーからの依頼の違いはあるが、新しい商材を従来の顧客を中心に積極的に拡販して定着させるケースである。成功は、諦めずにトップが根気よくアテンションをかけ続けたことにある。それに本店より地方の営業所での成功が多い。地方では客層を十分持っていないため、ハングリーさが推進力になっているからだ。令和が進行するにつれ、現場の新しい動きは従来と不連続の商材が使われることも多くなる。したがって③の対応が必要となる。これにチャレンジするには今まで以上に難しい。新商材を新しい見込み客にいきなり紹介してもうまくいくことはない。このような見込み客を攻略するには何度かの訪問が必要になる。それには新商材の力だけでは無理がある。再び会ってもいいという雰囲気を作れるかどうかだ。
色々なやり方があると思うが、その一つに販売員としての教養を挙げることができる。教養といっても難しく考えないで、墓売りであるウィリー・ゲールの言を借りれば「相手が墓について色々聞いても調子に乗ってしゃべるな。相手をよく見て感情に沿って話をせよ」である。売りたい一心で勝手に気を使って話をするというのではない。相手の感情を正しく見て、それに寄り添うのが販売員としての教養なのである。そのためには月に一、二冊の読書をした方がいい。