エッジコンピューティングにAIを組み合わせた「インテリジェントエッジ」が昨今製造業のスマートファクトリー領域において着目されている。
インテリジェントエッジが求められる背景として、大きく分けて5つの事項がある。1点目として、「低遅延・リアルタイム性」が挙げられる。スマートファクトリーを含む、低遅延が求められるアプリケーションが増加しており、クラウドへの伝送遅延をエッジ側でカバーすることが必要となるようになってきている。2点目として、「データ保護・セキュリティ」がある。データがローカルに保持されることで、分散管理が実現でき、高いセキュリティ強度を持つことが可能となる。3点目として、「消費電力の低減」があり、クラウド(データセンター)側での集中管理の解消・分散が挙げられる。そして、4点目として「ネットワークトラフィックの低減」があり、エッジ(ローカル)での処理とデータ管理による、ネットワークの負荷低減を実現するとともに、5点目として「AI活用による更なる自動化・自律化」が期待されている。
インテリジェントエッジの目的は、低遅延が求められるアプリケーションに対して、エッジ側でのリアルタイムのデータ処理とAIによる解析を提供することで、即時性を高めることにある。それに加えて、クラウド上でエッジ側の処理データ・結果を集約・学習することで、特定のサイトや企業内に留まらず、ベストプラクティスをモデル化・ライブラリ化することが可能となる。
【エッジ側の機能】
エッジは大きく分けて、「デバイス組込型」と「ゲートウェア・コントローラ型」の2種類に分けられる。「デバイス組込型」はデバイス自体をインテリジェント化することであり、デバイスに「AI Chip」「Data Processing」「AI Engine / Algorism」「Security」等のファクションを組み込む(AI Algorismは、デバイスの予防保全、不具合点検・解析、環境の状況理解等、多岐に渡る機能を指す)。
一方、「ゲートウェア・コントローラ型」はレガシーデバイスのデータを集約し、エッジ側で解析するためのインテリジェント化されたゲートウェア・コントローラを提供する。ファンクションは「デバイス組込型」と同様であるが、複数デバイスを管理対象とすることが異なる。
【クラウド側の機能】
クラウドは大きく分けて、「①エッジ管理」「②データ集約ストレージ・学習用AI Engine」「③学習モデルのライブラリ」の3つのファクションが必要となる。
①は、管理対象のエッジを遠隔で管理(監視・設定)するとともに、クラウド側で学習したモデルをエッジに配信する役割を担う。
②は、エッジ側での結果データを自社工場などの同一サイトに留まらず、複数サイトからクラウドに集約し、継続的に学習することで、ベストプラクティスと学習モデル(AIアルゴリズム)を確立・改善していく。(その学習モデルを①に連携し、自社サイト+他サイトに配信していく)
③は、学習モデル(認識モデル+行動モデル)をライブラリ化するファンクションとなる。学習モデルは自社で開発・提供することもあるが、外部のパートナー企業や開発者も参加可能とするケースもある。
スマートファクトリーの具体的なユースケースとしては、エッジ側で、画像解析による不具合製品の検証と品質管理の実現、設備データや性能データ、環境データ等の収集・分析を行い、予兆保全等、リアルタイムで適切な即時アクションを実現する。また、特定の工場に留まらず、全社及び企業間で情報・結果をクラウド上で集約・学習することで、各現場に対してベストプラクティスをフィードバックすることが可能となる。
具体的な取り組みは、グローバルの自動車関連プレイヤ(フォルクスワーゲンやデンソー等)が先行しているように見える。世界中の全工場の様々な機器からデータを収集・蓄積し、単一のクラウドプラットフォームで集約し、分析を行っている。(デンソー:Factory-IoTプラットフォーム、フォルクスワーゲン:Industrial Cloud)
現状は世界の工場をクラウドで繋げて、データを自由に利活用すること(生産設備の稼働状況の監視、予測的なメンテナンス等)が中心のように見えるが、今後は学習機能をクラウド上で置くことで、特定工場のモデルをベストプラクティクス化し、グローバルの全工場を展開しくことを強化していくことが想定される。
また、FAプレイヤであるオムロンは、制御機能に独自のAI機能を搭載した「AI搭載マシンオートメーションコントローラ(=AIコントローラ)」を展開している。それに合わせて、直動機構、エアシリンダ、コンベアを対象としたAI予知保全ライブラリ等を提供しており、熟練技能者の勘・経験等の暗黙知を形式知化し、装置状態の変化を超高速・高精度に検出することで、瞬時に発生する品質の不良や設備の停止を未然に防止することを目指している。(当社はエッジ領域にフォーカスしており、クラウド側はオープンに外部プレイヤとの連携を前提としている)
以上のように、インテリジェントエッジといった新たなテクノロジの潮流を取り込み、日系製造業のデジタルトランスフォーメーションに対する取り組みが加速し、競争力強化に繋がることを期待したい。
◆デロイトトーマツコンサルティング合同会社 中村智行(なかむら・ともゆき)
電機・ハイテク産業を中心に、新規事業・サービス企画、経営管理・組織再編、業務改革、技術戦略等、幅広いプロジェクトを手掛けている。近年では、スマートマニュファクチャリング・ファクトリー領域を中心に活動している。