新年度を迎え、アフターコロナ社会を視野に入れた次世代の戦略が重要となってきている。中小製造業の再起動を提言する本寄稿も、6年以上にわたって連載しているが、コロナ禍による影響は、中小製造業にとって過去経験したことのない最大級の『チャンスと脅威』が訪れていると感じている。しかし残念ながら、テレビなどの報道からこれらを認識することはなかなか難しい。中小製造業の経営者にとって、史上最大のパラダイムシフトを理解し、将来の経営戦略を固めることが、企業経営継続の必須条件となる事は明らかである。
今回から『茹でガエル危機』と題する連載をスタートする。副題を『NNF(ニューノーマル工場)への変革』とし、中小製造業のアフターコロナ時代のあるべき姿(To-Beモデル)を考察し、具体的な実現手段を紹介する。
従来から、IoTやDX(デジタルトランスフォーメーション)、およびインダストリー4.0の話題は多く取り上げられ、解説も各所で行われているが、ドイツやアメリカの理論を直輸入し、大手製造業に視点が置かれているため、熟練工と共にノウハウを育んだ日本の中小製造業経営者には全くピンとこない。今回からの連載では、中小製造業の現状に即した具体的戦略・戦術を解説する。
NNFとは、「New Normal Factory(ニューノーマル工場)」の略であり、アフターコロナ時代に求められる『社員の安全』を確保し、デジタル変革(DX)による『生産性向上』を実現する『中小製造業の未来工場』を意味する言葉である。
今回からの前半編6回は、中小製造業を取り巻く外部環境の変化を把握し、その変化から中小製造業の『対処すべき課題』を明確にすることでNNFのイメージを固める。後半編の6回では、すでに実践し成功している企業の事例と研究を紹介し、論理や能書きではない具体的成果を追求する姿を連載する。全12回1年間で完結する予定なので、ぜひ楽しみにしていただきたい。
1回目は、『茹でガエル危機』をマクロ視点で指摘していきたい。テレビではコロナ報道一辺倒である。今日の陽性者数推移は誤差範囲の微小変化であるが、これに専門家や政治家が一喜一憂し、まるで重大事件のように報道するテレビウイルスに感染したら、経営者は完璧な『茹でガエル』となる。テレビが報道しない国際情勢の変化が、中小製造業の経営を直撃するのは明白であるが、コロナが怖い! コロナ対策が全て! と思ったら、これがテレビウイルス感染の証であり、『茹でガエル危機』の到来である。
最近、精密板金企業を訪問すると、受注が急拡大している企業が多く明るい話題が多い。ファナックの仕事をしている企業では、コロナ禍以前を超える受注量を抱え大忙しである。半導体製造装置などの関連業種でも見通しは明るい。その一方では、年初より鋼材価格が急騰し品薄に陥っている。先日の日本経済新聞は東京製鉄の鋼材値上げを報道した。スクラップ価格も大幅に高騰しており、この影響から鉄鋼メーカー各社が一斉に反応し、大幅な値上げを断行している。これらの鋼材高騰の原因は『中国』といっても過言ではない。中国の旺盛な需要が影響している。ファナックも中国向けのロボットなどの販売が急拡大中だ。米中貿易摩擦により、中国経済の衰退を指摘する論調もあるが、中国経済は急上昇しており、好むと好まざるとに関わらず日本経済は中国依存となっている。ところが、中国は香港問題に加え、ウイグル自治区の人権問題を抱え、欧米各国は歩調を合わせて制裁を実施し、中国に敵対している。欧州連合(EU)でもかつての親中政策から一変し中国制裁に踏み切った。EUの明確な中国政策の変更である。米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド(ファイブ・アイズ)の5カ国を中心に、国際社会での中国包囲網が構築されているが、日本政府はその態度を明確にせず、経団連は依然として親中・中国依存路線を変更していない。しかし、中国に依存する日本経済は危険の淵にあり、長続きしない。尖閣・台湾が一発触発の状況にあり、近いうちに日中が軍事衝突する恐れもあある。中国に投資した日本企業は全てを失う時代がすぐそこに来ている。
米国国内でも混乱が続いている。疑惑だらけの大統領選挙の後遺症に加え、移民問題をキッカケにバイデン大統領への不信任が増大し、バイデンは早くもレームダック(死に体)となり、仲間の民主党議員にも批判されている。バイデンの求心力低下はあまりにもひどく、トランプの人気は健在で、米国の分断はひどくなる一方である。米国は人口3億人のうち、移民人口4700万人を擁する世界最大の移民国家である。1200万人の不法移民がいると言われており、数々の問題を引き起こしているが、トランプ前大統領の方針を一変し、バイデンが不法労働者の受け入れ容認を発表したことで、不法移民者が殺到し大混乱となっている。このような米国の実態しをほとんど報道しようとしない日本の大手メディアはバイデンの失策も決して報道しない。このような国際情勢から読み取れる中小製造業の戦略は、㈰中国依存からの撤退㈪外国人労働者に依存しない。この2点が極めて重要な方針である。
繰り返しの結論であるが、日中の軍事衝突も懸念される中で、2021年の中小製造業の最大戦略は、これを念頭に置いた計画である。コロナ報道に明け暮れ、国民を脅す専門家や政治家の声をブロックする努力が『茹でガエル危機』の特効薬である。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。