中小の販売店は、販売員の不足を嘆いている。手をこまねいているわけではない。職種を営業として募集すると、まず応募してくる人は少ないので、職種を業務一般として募集するという。そして入社した社員が会社に十分慣れた頃に、営業をやってみないかと説得している。それで販売員になることも多々みられる。中小販売店の嘆きは、やっと入社して販売員になっても一年や二年で辞めてしまうことである。
学校を卒業して社会に出る時に、誰もが不安と希望を持っている。かつて高校を卒業して社会に出る人が多かった頃に、高校の先生は学校生活と社会生活は違うと言って、社会の厳しさや社会人としての心構えを折に触れて教えた。現在では多くの生徒が大学へ進学する。だから社会に出て行く時の心構えを教えるというより、もっぱら大学進学の教科を熱心に教える。大学では専門学を教える。学生は専門学の勉強と学生生活をエンジョイして社会に出てくるから、かつてのように社会人として心構えを折りに触れ教えてもらうことなく社会人になる。
社会に出てそれまでの学生生活とのギャップに戸惑う。日本の社会は他国に比べれば同質性を求める社会である。だからまず出合う摩擦は人間関係である。中小販売店のように小規模の会社の場合、社員数が少ないために会社の風土に合わないと、一人浮いてしまって辞めることになる。社員数が多い場合には三、三、五、五の集団ができるから、自分に合った集団に属することができる。そのために辞める率は少なくなる。
すぐに辞めてしまうという原因が会社に合わないという理由ではなく、営業という職種が合わないと思って辞めるのであれば、それは営業を正しく教えてないからである。入社した社員を即戦力にするために、顧客に迷惑がかからない程度のことを教えたら現場に出す昨今である。この事は販売員不足を嘆いてはいなかった頃でも、早く現場に出して営業に慣れさせようとしていたのは同じであった。しかし同じように見えても違っている。かつては早く現場に出す目的は、顧客という人との接触に慣れさせる事であった。だから上司が新人のバックアップをしながら、営業とは会社を支えている重要な仕事であることを折りに触れて教えた。顧客と接する販売員は会社の代表だと教えられ、同行の時とか定時以降の飲食の席とか色々な所で、会社の代表の自覚を持つとはかくあるべしとの教えがあった。そのような自覚は、人としての成長を促した。だから販売員は単なるセールスマンではないという自負を持つことができたし、営業は大変だからと言って簡単に辞めてしまう人は少なかった。
現在では、一日も早く現場に出す目的は、早く一円でも多くの売り上げを上げてもらいたいからである。だから促成的に営業上の実務や扱い商品を覚えさせる。その後、先輩や上司と同行して、営業とはこういうものだということを体験させる。頃合いをみて担当客を持たせる。あとは担当客との付き合い方を自然に学ぶだろうというのが、小規模販売店の営業教育である。結果的に、営業は機器部品のセールスマンでいいという教育になっている。
小規模販売店を応募する人は、会社に魅力を感じて入ってくる人は少ない。だから営業という職種に魅力を感じるような教育が必要なのだ。難しい事ではない。促成的な教育が終わった後のフォローの問題である。社会は人と人との付き合いで成り立っている。だから人との付き合い方で人生を面白くしたり、有利に事を運んだりできる。営業は給料をもらって人間関係の築き方が学べるのだから、いい職種なのだ。折りに触れ、そこのところを教えていけば、営業は大変だというハードルを超えて面白くなるだろう。