令和の販売員心得 黒川想介 (46)技術者は「新しさ」を模索する営業に求められる方策の解決

東京の新宿に公式ではないが、通称で「職安通り」と呼ばれる大通りがある。新宿歌舞伎町をぶらついた人は誰もが知っている公共職業安定所がある通りである。職業安定所が「ハローワーク」と呼ばれるようになって久しいが、今でも若者に「職安通りはどこか?」と尋ねられる。
職業安定所は職を斡旋する公的機関なのだが、通称の「職安」という響きに失業者が出入りする所というイメージがあった。平成が始まったころに、職安というやや暗いイメージを一新するために役所がネーミングを公募した結果、ハローワークに変わった。戦後雇用制度を形成していた終身雇用という年功序列が崩れ出したことが、その背景にあったからである。
今では人員採用を「リクルート」と言って、転職は欧米のように失業という暗いイメージは無くなり、ごく普通に行われている。社会システムや転職のイメージが変わったからというわけではないが、機器部品の販売店では「今の若者は入社してもすぐ辞める」と嘆く。
この業界では昔から販売員の出入りは結構多かった。
ただし入社してすぐに辞める人は少なくて、営業に慣れた人が辞めるケースが多かった。また、辞めても同じ業界に再就職する人が大半であった。つまり、機器部品営業は好きだが、会社との折り合いが悪いための転職だった。しかし今は、簡単に辞める人は同じ業界の営業を渡り歩くわけではない。だから中小の販売店に転職してくる人は他業界から飛び込んでくる人が多い。その彼らが最初に感じることがある。他のサービス業から飛び込んでくる彼らは理系が苦手であるから、難しそうな電気用語や品種の多さに驚いてこれは大変だと思う。
それでも辞めずに残った人が大変だと思うには担当、客を持つまでである。その後は電気関係を深く知らなくても多くの形式を覚えきらなくても、顧客が言う用件を懸命にこなして時が過ぎていく。他の業界の営業にいた時は、見込み客に接近していかなければ売り上げは上がらなかった。この業界は難しいことを覚えるのは大変だが、顧客の言うことを懸命にこなしていれば売り上げの計上ができていた。時がたち、電気用語や多くの商品知識が身についてくると顧客との付き合い方に慣れた営業のスタイルができる。しかしその様な営業の慣れが新しい令和の時代には落とし穴になるのだ。令和時代を背負う若い販売員に「どの様な販売員になりたいか?」と尋ねると「顧客から最初に相談してもらえる販売員」という回答が多い。顧客からの情報を適切に処理し活躍する先輩の背中を見ての発言であろう。
では「何の相談をしてもらいたいか?」と尋ねると、咄嗟(とっさ)に出る返答は、案件や商材探しの相談、あるいは商品仕様や使い方といった技術的相談などである。つまり若い販
売員の思いは、早く扱い商品に慣れて受注になる案件が入って来ればいいなぁということである。相談を受ける関係を築くことは販売員にとって重要なことであるが、どの様な相談が来るのかが重要なのである。
顧客が営業に相談する局面はいくつかある。例えば①とにかく今すぐ困っている状況②どのように進めればいいのか迷っている状況③何か方法がないか考えている状況、などである。顧客からの言い分をこなすのに慣れた営業をやっていれば①の相談は来る。技術的な面でも相当な知識や経験があれば②の相談も来るだろう。しかし、③の相談となるとハードルは高い。令和という新時代に情報技術で装備される現場で技術者たちは新しい何かにチャレンジする局面が出てくる。技術者は当初、潜在的に③の相談を抱えているのだ。顧客の言い分をこなすことに慣れた営業には③の相談に真剣に対応しようとしないだろうから、新しいマーケットに入る機会は少なくなる。

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