今からちょうど10年くらい前のことです。今はもうないのですが、経団連が主催する「日本経団連洋上研修」というユニークな研修がありました。多くの会社の管理者や監督者あるいはその候補者が200人くらい船に乗り込んで8日間にわたる研修をするのです。私はその研修の講師の一人であり、毎年多くの方々と一緒にいろいろな議論をするのを楽しみにしておりました。
その年の名誉団長はコマツ会長(当時)の坂根正弘氏でした。そしてみんなで食事をしていた時に坂根名誉団長が「この中で、ボルトがひとりでに緩む瞬間を見たことある人いるかい?」とニコニコしながら質問されました。ボルトを緩めたことはありますが、ひとりでに緩む瞬間は見たことがありません。私もみんなも黙っていました。すると坂根会長は続けて、「そうだろう、見たことないだろう…。でも自動車や設備でボルトが緩むことによる問題は多いよ。実際に誰もその瞬間を見ていない大問題というのは実に多いんだよな。」とおっしゃいました。
確かに不良統計でボルト緩みという項目は多く、数字も具体的ですが、その瞬間は誰も見ていません。実際に自分の眼で見ていないにもかかわらず、そのことについてあたかも分かっているように振舞ってしまうことは多いなあとその時に思ったものでした。実際、見ればすぐにわかることであっても見ないで間違った判断を下したり、解決を遠回りさせたりすることも起きているでしょう。
不良が出続けている時に、誰も現場を見ておらず、正確な状況判断ができていないまま対症療法を撮り続けていることもあります。対策だけ行おうとするからなのですが、実は簡単に解決できることが原因だったりします。見ることができるモノはまず見ることが大切です。
管理では「見ること」を補うことはできないのです。しかし、もしそれらを自分の眼で見れば、瞬時に正確な対策を打つことができるでしょう。現場で現物を見ることは最大の対策手段です。
■著者プロフィール
柿内幸夫
1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。
経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所 所長 改善コンサルタント、工学博士 技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授
著書「カイゼン4.0 – スタンフォード発 企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所<101項>」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。