製造や製品設計の現場に出入りしている機器部品の販売店は、扱う商品に応じていろいろな特色を持つ店になっている。一般的に区分すれば、電設資材店、機械工具店、制御機器店、計測機器店、電子部品店などの名称で商いをしている。
しかし近年は、この様な区別がなくなりつつある。売れる商品は扱い枠を越えて積極的に売っていこうとする販売店が増えている。日本は欧米の製造業と違って中小の製造企業が多い国だ。これまで中小の製造企業にきめ細やかな対応をしてきたのが機器部品のチャネルになっている販売店である。近年の製造企業の事情は、市場の潜在ニーズを捉えて商品化するのは大企業ではなく中小企業のようである。大企業は研究開発や技術開発によってマスマーケットに向けた商品を出す傾向にある。
昭和の終わり頃に「大企業病」という言葉が流行した。この言葉は大企業自身から出た言葉であった。大企業病という言葉の背景には、中小企業が持っていた素早い行動やマーケットに対する感性の良さがなくなったという嘆きがあったのだ。
戦後の日本企業は、マーケットの芽を捉えて素早く商品化をはかり、大きな企業へと成長してきた。だから官僚化している大企業とは一線を画すという中小企業の気風を良しとしていた。当時の販売員はそういう気風を持っている現場に出入りした。
現場では現在の販売員がうらやむほどに設備の自動化が次々と行われた。それにともない、新しい機器や部品が次々と誕生した。日に日に新しくなる機械装置や生産ラインの自動化に取り組む技術者は、猫の手も借りたいほどの大忙しさであった。猫の手の代わりを務めた販売員には次々と相談が持ちかけられた。そうして機器部品の販売員は営業の面白さを知った。
現在の販売員も相談を持ちかけられるようになると営業をやっていて良かったと言う。現在の相談内容はあらかじめ使用する機器部品が決まってから、仕様の相談であるが、当時の相談はいきなり仕様の打ち合わせではなく、どうしたらいいかという内容の相談から入ることが多かった。そこでは現場全体の話にしばしば及んだ。その時に機器部品がどの箇所にどんな役割で使われるのかを知った。それに自社扱い商品以外のことも自然に分かるようになった。そういう意味では、現在の販売員から見ると、かなり幸運であった。
昔も今も顧客に相談を持ちかける販売員には何かしらの魅力があるはずだ。販売員は人であるから人としての魅力が大切なことは言うまでもないが、相談を持ちかけられるには仕事の上での魅力は欠かせない。
当時の製造現場はどこに行っても自動化に湧いていたから、販売員が持つ魅力のひとつは自動化の話が通じることであった。多くの販売員は理系出身ではなかったから、自動化の話題で、そう簡単に技術者と話し合いができるわけがなかった。
販売員がやれたことは、一つひとつの打ち合わせを大事にすることであった。つまり打ち合わせ時に仕様を説明し、顧客の質問に答えるだけではなく、なぜそのような質問をされるのかを親身になって知ろうとしたのだ。技術者はそれに応えるために機械装置やラインの現状を詳しく説明した。したがって打ち合わせのたびに自動化の理解は深まった。当然それは自動化するための技術的なことだけはなく、レイアウト、面積、予算、優先度のようなことにも及んだのである。そのようにして自動化全体の話が通じる販売員になれたのだ。
現在でも同じことが言える。一つひとつの打ち合わせを大事にして、令和で進むICT技術の現場や環境や安全に配慮した現場の話題で話し合える販売員には魅力を感じるものだ。