総務省統計局による最新の労働力調査によると、2021年5月で失業者数は16カ月連続で増加し、完全失業率も3%を突破した。製造業の就業者数も1027万人と微減傾向が続く。ワクチン接種の開始でアフターコロナへの道が拓けてきたが、一方でこうした数字を見ると足元では厳しい状況が続いているのを実感する。DXやデジタル化で生産性を上げる、業務効率化をする、省人化をすることによって企業の利益率、経営体質が強化される。
それはそれで素晴らしいことでどんどんと進めていった方が良い。しかし日本とその製造業を俯瞰し、その将来を考えた時、国内の製造業で働く人、工場が減っているという事実は、足元の土台が揺らいでいるようでとても気がかりだ。
「会社は社会の公器である」と言ったのは、パナソニックの創業者であり、経営の神様と言われた松下幸之助だ。その意味をPHP研究所の松下幸之助.comの解説から引用すると「巨額の資本を集め、広大な土地を占有し、天下の人を擁して事業を営む企業は、形は株式会社、私企業であっても、本質は世間のもの、公器であるという考えとなり、さらに公器が赤字を生むのは罪悪である、という確信にまで発展した」
(https://konosuke-matsushita.com/keywords/management/no9.php)という。
つまりは、会社は人や地域、社会の協力と支えがあって成り立つものであり、私企業であっても独尊的にならず、きちんと利益を出しつつ、お世話になった人や社会に還元しなさいということ。工場が減り、働く人が減っている状況は、厳しい見方をすれば、製造業が公器としての役割を果たせていない状況にあるということ。「数は力」であり、増やす努力が必要だ。
ここ10年ほどで、中国や東南アジアの人件費の高騰や政治不安などを受け、海外の生産拠点を国内に回帰せよという論調がメディア等で強くなった。またこのコロナ禍でマスクや医薬品の不足を受けて国内製造への期待感が高まり、加えて半導体不足によって自動車や電気機器の生産に影響が出てきたことで、ここでも「国内製造を」という声が上がっている。国も「サプライチェーン強靭化」という錦の御旗でもって国内回帰を後押しし補助を行なっている。
現在のこうした風潮は、国内の製造業を強化する絶好の機会だ。生産設備や産業機器業界の活性化にもつながり、さらには雇用を生み出す。日本は世界の先進工場、モデル工場、マザー工場となり、ビジネスを強化する。これが日本の製造業DXの行く道だ。