今日のコラムでは、「 べき論 」をかざすだけで、動かない若手技術者の育成ということについて考えてみたいと思います。
べき論 をかざす若手技術者の心理背景
若手技術者は専門性至上主義を掲げる一方、経験値と自尊心の低さをカバーするために様々な言動をします。その典型的なものの一つに、「べき論」をかざすだけで、動かないというものがあります。
例えば量産につながるような場面で問題が起こったとします。その際に、以下のような発言をする若手技術者を見たことは無いでしょうか。「その問題は、私たちのいる部門とは関係のない話だと思います」。このような発言は周りの反感と同時に、モチベーションの大きな低下を引き起こすと思われます。当然ながらそのような発言に対してはマネジメントが注意することは不可欠です。しかしマネジメントとしては、若手技術者が同じような言動をしないよう、指導しなくてはいけません。そのための第一歩として、これらの発言が何に由来するのかを理解することが対策の検証に重要です。
自部門の業務に線引きをする若手技術者の言動の背景は、「当事者意識の欠如」と「問題解決力の不足」に由来しています。当事者意識の欠如というのは、突き詰めてしまえば「自分ではなく誰かがやってくれるだろう」という人任せな部分に来ています。起こっている問題が自分に関連することであるにもかかわらず、それを他人事のように振る舞うことで責任から逃れようとしています。さらに若手技術者は社会人としてチームプレーを経験したことが無いため、自分の都合だけで話を進め、自らを守ろうとしているのです。
これは残念ながら多くの若手技術者にみられる典型的な言動の一つといえます。このまま年齢を重ねてしまうとべき論をかざすだけの評論家技術者になるため、早い段階で育成を通じて改善させることがマネジメントとして重要だと思います。
もう一つの問題である「問題解決力の不足」は経験が無いので致し方ない部分といえます。個々人のレベルの差により、若手技術者であっても問題解決力を有する稀な若手技術者もいますが、多くは経験値を重ねなければなかなかみにつくものではありません。やはり技術者育成というアプローチが必要です。
べき論をかざす若手技術者育成方法
では、具体的にどのように教育していけばいいのでしょうか。結論から先に言うと、「年長者(マネジメント含む)が問題解決をしようとする姿勢を見せる」ということになります。
既に述べた通り、若手技術者は専門性至上主義を有しています。裏を返すと、自分の知らない知見や経験を活用しながら問題解決をする年長者である技術者の姿は、「自分には無い専門性を有している」という印象を与えます。
これは、どのような教育や指導よりも若手技術者に深い共鳴を与えることができます。何故ならば、「若手技術者に対し、高い専門性を有するという印象を与えることが、絶対的な信頼を与えることにつながる」からです。
実際は専門性というよりも、経験という部分に裏付けられた知見が実務では重要なのですが、若手技術者にそのような過去の時間は見えません。しかし、若手技術者は自分のできないことに立ち向かう年長者に対し、少なくとも自分との違いを見るはずです。その際、多くの若手技術者は専門性至上主義に則り、「この人は自分よりも高い専門性を有している」と判断するのです。この判断をされると、人として重要な「信頼」を勝ち取ることができるのです。
信頼を勝ち取れれば、当事者意識のない技術者に業務指示をして業務を遂行させる、また行き詰った時に若手技術者側から助言を仰ぎに来る、といった相互のコミュニケーションが取れるようになります。そして、間違えたこと、誤ったことをしたときに叱ることで、自省を促すこともできるようになるのです。
いかがでしたでしょうか。専門性至上主義を有し、かつべき論をかざす若手技術者を育成するには、その主義を逆手に取り信頼を得ることが重要です。そしてその信頼をえるためには、年長者自らが解決に向けて動くという姿勢を示すことが必要になります。べき論をかざす若手技術者に対する育成の一助にしていただければ幸いです。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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