ローカル5Gの製造現場適用の方向性

製造現場においてローカル5Gに対する期待が高まっている。一方で、製造現場の高度化を図るためのネットワークとして、“ローカル5Gが最適解となるか”という問題がある。
ローカル5Gが本当に必要とされる、あるいはローカル5Gではないと高度化できないケースを整理し、最適解を冷静に見極めることがユーザー企業において求められていると思料する。

本稿では、どの様な用途においてローカル5Gが最適解となり得るか整理する。

製造現場で活用されているネットワークは、①制御情報ネットワーク、②コントローラー間ネットワーク、③フィールドネットワークの3つの種類である。

①制御情報ネットワークは、ERP( Enterprise Resources Planning)・MES(Manufacturing Execution System)・SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)などのシステムを結ぶネットワークであり、主に稼働状況や生産実績データなどを収集することが目的である。いわゆる標準的なイーサネットが既に利用されており、リアルタイム性や信頼性に対する要求値はその他2つに比すと低い。

②コントローラー間ネットワークはPLC(Programmable Logic Controller)・DCS(Distributed Control System)・産業用PC・ロボット・マシンビジョンカメラ等の機器を結ぶネットワークである。機器間の連携より、生産ラインなどの制御や制御情報ネットワークに対して各種データを送信することが目的である。ライン制御などを行うため、高いリアルタイム性・信頼性が求められる。

③フィールドネットワークは、コントローラーと各種センサー・モーター・インバーターなどのフィールド機器間でデータを交換することを目的とするネットワークである。②のコントローラー間ネットワークと同様に、高いリアルタイム性・信頼性が求められる。

ローカル5G適用による効用(例:低遅延・大容量・多接続を実現しつつ、工程設計・変更の自由度・柔軟性を向上する)が期待される領域は②のコントローラー間ネットワークあると思料する。①の制御情報ネットワークにおいては既に活用されている標準的なイーサネットをワイヤレス化することによる効用は少なく、基本的には既存ネットワークを活用することが望ましいと考える。③のフィールドネットワークにおいては、大容量データ転送が求められる領域でもないため、既存ネットワークを置き換えることの意味合いは少ない。今後工場において設置されるセンサーが大幅に増加(例:作業者センシングなどを目的にセンサー設置するなど)した場合には、ローカル5Gの超多接続が有効になる可能性もあるが、現時点で有効なアプリケーションが見えていないため、本稿では最適な適用先ではないと結論付けさせていただく。

②のコントローラー間ネットワークにおいてどの様な用途でローカル5Gが最適解となりうるのか。現状のローカル5Gでは、工作機械や実装機などの超低遅延が求められる用途では活用困難であると思料する。産業用ネットワークとして既存有線ネットワークと5Gが伍するためには、イーサネットをベースにしながら時間の同期性を保証しリアルタイム性を確保できるようにしたネットワーク規格TSN(Time Sensitive Networking)への対応が必要であるためだ。2020年7月に策定されたリリース16において、TSNの基本要素の標準化は完了しているものの、精度向上など現場で利活用するために必要な対応事項は残っていると思料する。また、工作機械や実装機などはいわゆる“モビリティ性”を強く求めないアプリケーションでもあるため、ワイヤレス化による効用も少ない可能性が高い。

今後数年におけるローカル5Gの最適適用箇所は、超低遅延性よりもモビリティ性や柔軟性が重要となるAGVやロボット、大容量データ伝送が求められる様なマシンビジョンカメラ等が該当すると思料する。

ローカル5Gと同じく低遅延・大容量・多接続を実現しつつ、工程設計・変更の自由度・柔軟性を向上するソリューションとしては、WiFi6も存在する。ローカル5Gと比較すると最大の特徴は、“免許不要で誰でも設置可能な手軽さがあること”である。そのため、ローカル5G活用には存在する“システムが高額である”という問題がWiFi6に存在しない。

一方で、セキュリティ強度・通信品質の安定性という、ミッションクリティカルなネットワークに求められる要件では、ローカル5Gに軍配が上がる。故に基本的にコントローラー間ネットワークの高度化を図るためのソリューションはローカル5Gが最適ではないかと思料する。

但し、WiFI6もミッションクリティカルな領域ではない且つワイヤレス化の効用が期待できる領域で有効活用可能と思料する。例えば、高精細なMRを活用した作業者支援デバイス向けのネットワーク、タグやスマホでの位置情報を活用したアセット管理などが該当するだろう。将来的にローカル5Gに係るコスト・運用の手間等が最小化された暁には、これらの用途もローカル5Gで統合していくことが最適解にはなると思料するが、今後数年の過渡期においてはWiFi6との併用も検討することも一案と考える。

◆デロイトトーマツコンサルティング合同会社 シニアマネジャー 高橋成禎
エレクトロニクス業界を中心にAI・IoT等のテクノロジー領域での事業戦略・市場参入戦略等のコンサルティングサービスに従事する。近年はデジタル× Automotive/Industrialをテーマにエレクトロニクス業界の車載・産業向け事業戦略策定支援を行う。

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